第9回金沢創造都市会議

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プレゼンテーション@

第1部プレゼンテーション
コーディネーター
宮田 人司 氏(株式会社センド代表取締役、クリエイティブ・ディレクター)

■プレゼンテーション@ 「自動運転」

プレゼンテーター
志賀 俊之 氏(日産自動車株式会社取締役/株式会社産業革新機構代表取締役会長兼CEO)
コメンテーター
半田 隆彦 氏(金沢創造都市会議開催委員会実行委員)

すべての車がクラウドでつながり車社会が変わる


セッション1

 (宮田) 私は約30年ベンチャー企業をやってきていまして、30年たつとベンチャーなのか、その辺がよく分からなくなるのですが、先ほど代表幹事からまちづくりというのは根気が要るものだとお話がありました。ベンチャー企業はスピード命のようにいわれていますが、僕もこの会議に十数年関わらせていたただいて、根気というものを金沢で教えてもらったところがあります。非常に両極端なことをやらせていただき、すごく成長したような気がしないでもありません。

 今回は、非常にテーマが壮大だと思っています。AIとまちづくりという、僕もあまりお話ししたことがないような内容で、しかも、日本を代表する企業と、日本をこれから背負って立つスタートアップの組み合わせのお話で、非常に楽しみにしています。
 最初は志賀様にプレゼンテーションをしていただくのですが、今、自動運転やモビリティは非常に熱い時代だと思います。僕が自動運転を最初に経験したのはもう数年前で、シリコンバレーのGoogleに行ったときに、テストでつくっていた自動運転の車に乗せてもらったことがあります。人間がいない、運転していないということで、最初の10分ぐらいは非常に恐怖だったのです。ただ10分ほどたつとすごく慣れて、人間が運転している方が怖くなりました。
 恐らくずっとドライブしたいという人もいるでしょう。自動運転でどこかに出かける、そうなると交通機関がどんどんアップデートされていく未来が、もうそこまで来ていると思います。今日は、志賀様にその辺のお話をいろいろ聞かせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

(志賀) 皆さん、こんにちは。日産自動車の志賀でございます。
 今日、前半はこれからモビリティがどうなるかという話で、後半5分くらいかけて、金沢のまちづくりについて、私の方から提案があるので、それをお話ししたいと思います。

 ちょうどカール・ベンツとダイムラーが車をつくったのが1886年ですから、馬からガソリンエンジンになって、馬車がワゴン車になってから、ちょうど131年の歴史があります。
 実は車の構造は面白くて、当時、4輪ではなく3輪なのですが、基本的には四つのタイヤが付いていて、ステアリングがあって、内燃機関のエンジンがあって、それをプロペラシャフトで駆動に回して、ブレーキペダルとアクセルペダルが付いている。この構造は、実はカール・ベンツがつくったときからほとんど変わっていないのです。これだけのコモディティで、これだけ進化しなかった商品というのは非常に珍しいのですが、実はこれから大変な変化が起こります。

 車のモビリティの新しい動きを表現する言葉として、よく使われる言葉が「CASE」です。です。ダイムラーのCEOが最初に使って、結構皆さんが使うようになったのですが、最初のCはConnected(コネクテッド)のCです。今、皆さんが使われている車は、実はこのインターネットの時代でも、ほとんどつながっていません。皆さんが見られている地図も、買ったときの古い地図で走っているわけですが、これから恐らく間違いなくインターネットと同時接続しながら、新しい情報がどんどん車に入ってくる、そういう時代になるでしょう。
 その次のAがAutonomous(自動運転)です。もうその流れが始まっています。
 SがSharing(シェアリング)です。今、車は個人所有が基本になっていますが、だんだん共有(シェアリング)の世界が、車にも押し寄せてくるでしょう。
 最後のEがElectrization(電動化)です。これはEVもそうですし、燃料電池もそうですが、電動化が進むでしょう。

 このCASEがどの程度進むか。第4次産業革命の中で、IoT、ビッグデータ、AIというものが、今から大きな変化を呼び起こします。

 過去の第1次から第3次まで産業革命を見ると、第1次では1908年にT型フォードがデトロイトで量産されました。実は1908年に生まれた自動車会社の大量生産ラインというものも、あまり変わっていないのです。それが第3次産業革命でファクトリーオートメーションになります。ちょうど私が日産に入る10年ぐらい前に起こって、日産の座間工場でもロボットが使われるようになり、ロボットにモモエちゃんやジュンコちゃんという名前が付いていました。
 そしてこれから第4次産業革命が起こるのですが、この第4次産業革命は、今までの産業革命とは全く違うものをわれわれに提供してくれると思っています。

 具体的には、いろいろな言い方をされています。例えば「限界費用ゼロ社会」。ファクトリーオートメーションだと、ロボット一つ買うのに大変な費用がかかるわけです。従って、資本のある大企業はどんどん生産性を上げて、資本の少ないところは手作業になるので生産性格差が起こり、賃金格差が起こりました。産業革命の負の部分です。しかしIoT、ビッグデータ、AIというのはデジタルの世界ですから、皆さん誰でも限界費用ゼロで使える、共有社会が生まれます。
 あるいは、無駄を富に変える「サーキュラー・エコノミー」という言葉があります。これは単にリサイクルを言っているのではありません。例えば、大体、車というものは、生涯95%は駐車場で寝ています。これは無駄です。既にカリフォルニアあたりでは、時間貸しするアプリが出ていて、どんどん人に貸しています。駐車場で寝ている車がお金を稼いでくれるという、新しい経済が生まれつつあるということです。

 ダボス会議を主催しているシュワブさんという方が、昨年の今ごろ出された『第四次産業革命』という本では、いろいろなことが書かれています。例えば2025年までに起きる変化として、82%の確率で、体内埋め込み式の携帯電話が市販化されるだろうと書いています。また、人口5万人の都市で信号機が廃止される。なぜ信号機がなくなるかというと、車車間通信、あるいは車と道路が通信しているので、信号機が要らなくなるということです。このような大きな変化が起こります。

 内閣府が使った言葉で、「Society5.0」というコンセプトがあります。第4次産業革命を最も上手に言い表しているのが、これではないかという気が私はしています。
 Society5.0というのは、狩猟社会、農耕社会、工業化社会、情報社会を経て、今が超スマート社会ということで、必要なときに、必要なものが、必要な人に、必要なだけ提供される。あらゆる情報がつながることによって、無駄なものを生産しなくなってくる。需要が分かっているので、つくる方も分かっている。全てがつながってしまうと、超スマート社会という森羅万象のコンピューティングといわれている世界が生まれてくるだろうということです。これは多分、後ほどの金沢のまちづくりのアイデアとして使えるのではないかと思っています。

 実はここから、第4次産業革命の先に一体何が起こるかを、大胆予想してみました。これは私個人の予想で、日産自動車を代表した予想ではないので、気を付けていただきたいと思います。

 まず、この仕事をされている方がいると申し訳ありませんが、2050年にはガソリンスタンドは一軒もありません。次は免許証がなくなります。2050年には、普通の道路で自分が運転するのは危険行為とされて、禁止となります。自動運転車しか走れません。それはそうです。全部センシングされていますから、マニュアルで走られてしまうと、逆に事故が起こるので禁止されます。
 それから、信号機がなくなります。全ての車がつながっていて、どこを走っているか分かるので、交差点に来たら、早い方をそのまま走らせて、遅れて交差点に入る方は自動的に止まる。従って、信号機がありません。
 それから、自家用がなくなるので、自宅に自家用の駐車場を持つ人がいなくなります。まず、自分でマニュアルを運転できないわけですから、自家用車を持つ必要がないのです。どうしても運転したい人は、サーキットが解放されて、サーキットの自家用で運転する。サーキット用の免許証ができるかもしれません。
 これが私の予想で、結構いろいろなところで、学会の人も含めて話しているのですが、今のところ皆さんからあまり異論は出ていません。可能性は相当あると私は思っています。

 まず、なぜガソリンスタンドがなくなるのか。一つは、日産自動車で、10月に2代目のリーフを発売しました。航続距離が400kmです。2022年までに航続距離600kmの電気自動車を発売すると既に発表しています。ですから、ほぼガソリン車並みになります。

 そうはいってもコストの問題があります。しかしこれも、圧倒的にバッテリーのコストが下がってきて、エネルギー密度がどんどん上がっています。今、トヨタが巻き返しを狙って開発されている全固体型、このような新しいものが出てきて、ほとんどガソリン車を使わなくても電気自動車の方がコスト的にも性能的にも高まってくる時代が来ます。
 ここまで来るとどうなるのか。
 実は地球の温度上昇を2℃未満にしましょうと、2年前のCOP21のパリ合意で決めました。IEAという国際機関の予想では、地球の温度上昇を2℃未満にするには、2000年の車のCO2に対して、2050年には90%減らさなくてはいけないのです。従って、例えば2000年に日本で平均の新車の燃費はリッター14kmぐらいなので、逆算すると2050年にはリッター140kmの車を出さないといけないのです。これは技術限界、エネルギー効率からいって無理です。
 従って、必然的に再生可能エネルギーを使った電気自動車か、もしくは水素を使った燃料電池車になるわけです。フランスやイギリスがガソリン車は駄目だと言っているので、2040年ぐらいから、ほぼ全量がEVになる。そうすると、ガソリンスタンドがどんどんなくなってくるので、保有している車もEVかFCVにしなくてはいけなくなって、2050年には、保有も含めて、全ての国でEVかFCV推奨になるという予想を、私は立てています。

 今度は自動運転です。現在、交通事故でどれぐらいの方が世界中で亡くなっているかというと、125万人も亡くなっています。日本もやっと4000人を切れたのですが、そうはいっても年間3904人の方が交通事故で亡くなっています。これは大変な状態で、やはり自動車というのは人々の生活を豊かにし、経済を発展させてきたのですが、残念ながら環境問題と安全問題という負の部分を解決しないと、自動車産業自体が持続的な産業になりません。ここは非常に重要なところになります。

 ただ、事故が何で起こっているかというと、93%が運転手のうっかり事故なのです。ですから、車を幾ら安全につくっても、やはり人間が運転している限り、車で事故は起こってしまいます。そうなると、人間に運転させなければいい、そちらの方が安全だという発想に、自動車会社はどんどんなってきたわけです。

 なぜ安全かということですが、車は目で見て、頭で判断して、手と足で運転しているわけです。それを例えばカメラやレーザー、LiDARなどに置き換えていく、あるいは脳みその代わりにCPUやGPUなどコンピュータに置き換えていく、そして手と足の代わりにモーターアクチュエーターに置き換えていく。

 こういうものにすると、実は人間が判断するよりも、100倍速いのです。

***ビデオ上映 開始***

 2、3日前に、日産はDeNAと組んで、横浜のみなとみらいで無人の自動運転車を一般の方に開放すると発表しました。4つのレーザーなど、いろいろなスキャンや、8個のカメラが車中に付いていて、周りを見ながら走っていくという状態です。
 これは実際に高速道路を走っているところです。道交法の関係があるので、軽くハンドルを握っていますが、基本的にはもう自動で走れる状態にはなっています。
 今、人工知能に機械学習をさせるために、公道試験を繰り返している状態です。機械学習をすればするほど、不測の事態に備えることができて、事故が減ります。完全自動運転になると、事故の責任は基本的に全部自動車会社が負うことになるのです。運転手は関係ありません。これは自動車会社にとって死活問題なので、あらゆる不測の事態に備えた自動運転の実証実験を繰り返しているという状態です。

***ビデオ 上映終了***

 自動運転を安全にするために、幾つかやり方があります。車自身にレーザーやLiDARなどを付けてセンシングすることと併せて、地図側も3次元の地図を作っていきます。それによって、人間ですと、この先はどうなっているのだろうと目で見ながら考えているわけですが、車は3D地図が頭の中に入っているので、ずっと先まで道がどうなっているか、いつ信号があるかが分かるわけです。こういう地図を、私が会長を務めている産業革新機構が投資して、三菱電機や自動車メーカー10社と一緒になって作っています。
 3次元の地図があって、センシングがあって、それから後に少しお話ししますが、いわゆる脳みその部分、半導体が入ると大体車ができてくるという状態になります。

 今の日産の開発のスピードですが、去年販売したセレナの新型セダンに搭載された「プロパイロット」というものは、単一車線をセンシングしています。これは単眼カメラといって、カメラが一つで距離を測りながら走ります。この単眼カメラの技術は、イスラエルのベンチャー企業、Mobileye社が開発した技術で、単眼でどうして距離が分かるのか、いまだに私は不思議なのですが、実は最近のテストではステレオの自動ブレーキよりも、こちらの方が性能が高いといわれています。
 2018年には複数車線を走る、2020年には一般道に下りてくるという開発を進めて、2022年までには、日産は無人で走る車を市販するという準備を、今一生懸命やっております。

 これが私の二つ目の大胆予想です。ちょうど、セレナのプロパイロットという単一車線をずっと走ってくれる、前が止まったら自分も止まるし、前が動き出したら自分も動き出すという自動運転技術は、レベル2と呼ばれます。ステアリング、アクセル、ブレーキの三つのもののうち、一つだけ自動だと、自動ブレーキで、レベル1です。複数が自動で動くものをレベル2と呼んでいます。
 レベル3は、基本的には自動走行していて、自動走行中の責任は自動車会社が負います。ただし、目の前に現れたものが何か分からないとき、車が運転手に「替わって」と言います。従って、運転手は前を見ていなくてはいけない。「替わって」と言われて運転手が替わった後は、運転手の責任です。このインターフェースが非常に難しくて、レベル3で皆さん開発に苦労しているのですが、最近で言うと、アウディがA8というもので、レベル3を出したということです。公道を手離しで走ることは法律上できないのですが、法律が整備されれば技術的にはそうなってくると思います。2020年ぐらいからレベル3が一斉に来て、2025年ぐらいではレベル3がほとんどになるでしょう。
 実は、自動運転に任せなくても、そういう機能を持っている車であれば、自分が運転していてもほとんど事故は起こらないのです。アクセルペダルの踏み間違いや、高速道路の逆走事故などはほとんどなくなりますから、安全の面においても、これが普及してきます。
 レベル4というと無人です。運転席はあるのですが、全ての責任を自動車会社が負います。レベル5というのは完全な無人です。つまり、運転席がありません。ロボットカーやドライバーレスカーといわれるものです。
 従って、2050年にはほとんどが無人で運転されるようになる。こうなると、全ての車がつながっていますから、つながっていない車に道を走られるとすごく困ってしまうので、一般道走行禁止になります。
 これは私の予想ですから、いろいろ異論はあるかもしれませんが、これが自動運転の進化です。

 このような時代になると、ロボットタクシーなどで、移動時間が有効に使えるようになる。アメリカなどではこういうものを希望する人が多いです。それから高齢者の方々、免許返上された方々、あるいは体の不自由な方々、移動困難者や買い物困難者といわれる方に、移動の自由を提供できることになります。

 こういうことになってくると、いろいろなものが変わってきます。例えば、ここにいらっしゃる方で関わっている方がおられたら、そろそろ考え出された方がいいと思いますが、部品でいうと、基本的に内燃機関系は、2040年以降、ほとんど受注がなくなって、電子部品や半導体、センサーなどに業態を変えていかなくてはいけなくなります。

 材料もどんどん変わっていきます。例えば道路なども、電気自動車の場合、普通のガソリン車よりも6倍ぐらい多く銅線を使います。ですから銅ではなくて、銅からアルミやマグネシウム、ナノチューブに替えるなど、こういうところでもいろいろな工夫が起こってきます。

 これが最近話題になっている、いわゆるCloud-to-Carというものです。クラウドと会話しながら車が走ってくるのです。基本的に今の技術では、光の速度よりも早く通信することはできません。つまり、地図を見ながら遠くで起こっていることを頭で考えて走る分にはクラウドで大丈夫なのですが、残念ながら目の前に突然何かが現れたときは、いったんクラウドまで飛んでまた戻ってきて判断しているのでは間に合わないわけです。従って、エッジ側、車の中に人工知能を置いていく形になります。これがエッジコンピューティングといわれるものです。これらのところにコンピュータが入りますから、メモリをたくさん使うことになります。東芝メモリの争奪戦が数カ月前話題になっていましたが、何であんなにメモリが世界中の企業から注目されるかというと、車にこういうものがどんどん積まれていく時代になっていくからです。
 これは脊髄反射といわれていますが、要するに脳みそまで行っている暇がなく反射しなくてはいけないときに、車の中の部品が自分で判断をするような、自動運転化技術が進んでくることになります。

 材料もどんどん変わります。どんどん軽量化されていくので、鉄からマルチマテリアルという、いろいろなものの、合金ではない組み合わせのマテリアルから、CFRPのようなものに変わっていくということで、これも大きく変化していきます。

 今度はビジネスがどう変わるかで、これがまた衝撃的です。日産の販売会社の方もおられて少し話しにくいのですが、従来のようにメーカーが販売会社に卸して車を売るという時代が、いずれなくなると予想されています。完全になくなるというと、今のうちに商売を辞めようということになってしまうのですが、しばらくは持ちます。
 要するに何が起こるかというと、シェアリングエコノミーになって、車が個人所有ではなく共有になります。そうすると、シェアリングをしていくビジネスのプラットフォーマーが出てきます。スマホで「私はいつ、何時から使いたい」と言ったら、車が自分の目の前に現れてくれる。こういうところがメインのビジネスをやるようになって、もしかしたら自動車会社はそのハードウエア提供者になる。AppleやGoogle、どちらかというとGoogleに近いような会社が、一生懸命ハードウエアを提供する会社です。従って、今、自動車会社は、俺たちもやはりそちら側に行かないと駄目なのではないかということを考えています。一方、GoogleやApple、Uberやテスラなどのシリコンバレーの企業は、どうしたらこの自動車のOEMの人たちのビジネスを奪えるかということを一生懸命考えているということで、今、このど真ん中にあるということです。

 今日の夕方の議論のまちづくりにもなると思いますが、このように完全自動運転をベースにすると、道路も変わってきます。基本的には無人ですが、乗り降りする停車スペースができて道路も変わってくるし、あるいは基本的に電気自動車なので、その下の道は接触充電でどんどん車が走る、つまり充電をしなくても走って行けるようになっているということです。

 ここからは私の提案なのですが、こういう時代が来たときに、いずれにしても来るのですから、おびえていても仕方がない。われわれとしては、それにどう取り組むべきかということです。金沢の皆さん方に、ぜひ、こういうことで考えていただければどうかということで、ご提言させていただきます。

 そもそも日本が世界を席巻していた1970〜1980年代には、基本的に真面目にものづくりをやって、人づくりをやって、おもてなしをして、これで勝てていたわけです。ところが、残念ながら、毎日の新聞が表しているように、日本企業はどんどん海外の企業に買収されて、日本ではイノベーションがなかなか出てこなくなってきました。
 毎年のお正月に、ラスベガスでCESという世界家電見本市のイベントがあるのですが、かつてはCESに行くと日本の家電だらけだったのが、今、日本製はほとんどありません。3Dプリンターにしても、バーチャルリアリティにしても、音声認識などにしても、部品は日本製なのですが、アイデア、コンセプトはほとんど日本でありません。
 なぜそうなってしまったのか。ここをわれわれは変えてかなくてはいけないということで、私が必ず申し上げる一つ目は、ダイバーシティです。やはり日本は、日本人だけのモノカルチャーの国でいすぎてしまったが故に、世界から取り残されています。そういう意味では、多様性を高めなくてはいけません。

 なぜ多様性なのか。要は、モノカルチャーと多様のちょうど真ん中、つまり高度成長の日本の時代というのは、同質の日本人あるいは男性だけが日々改善を繰り広げていたので、失敗もなければ、ある程度いい物をつくって世界を席巻したのです。
 しかし、それだけでは勝てなくなってきて、外国人や異質な人を入れてどんどん多様性は広がるのですが、そうなると失敗が増えるので、皆さんやめてしまうのです。しかし、実は今、世界の競争は、多様な中で生まれるブレークスルーで進んでいるので、多様性を日本の競争力の原動力にしていかないと駄目だろうと私は思っています。ですから、ぜひ、金沢のまちづくりも、多様なまちづくりという形にしていただきたいと思います。

 実は、まちづくりで私が個人的に応援している宮城県の女川町は、震災でまちが壊滅的な被害を受けました。そこで今、地元の方と、いわゆるよそ者、若者、ばか者が一緒になって、非常に面白いまちづくりをやっています。ですから、これから明日の議論にもなると思うのですが、ぜひ、金沢の尾張町のまちづくりなども、地元の人だけではなく、多様な人たち、外から来た人たちの知恵も含めて考えられると面白いのではないかと思います。

 そういう多様なことをやっている企業はないかと探して、産業革新機構でお付き合いのある明和工業を取り上げてみました。この会社は金沢のベンチャー企業で、有機ゴミからバイオマス炭化装置を造って、ベトナムやモンゴル、ケニアなどとお仕事をしているという非常に面白い企業です。ぜひ応援したいと思っています。

 二つ目は、明らかにオープンイノベーションです。自前主義(クローズドイノベーション)の時代は確実に終わっています。オープンイノベーションは間違いなく産官学です。

 日本がなぜこんなに停滞したかというと、産業と大学との連携があまりにも悪いからです。日本の企業は、大体年間13兆円の研究開発費を使っていますが、日本の大学に使っているお金はなんと700〜800億円しかありません。海外と比べても全然違います。産業と学問、研究機関が連携しないで、イノベーションが起こるわけがないのです。

 ちょっと調べてみたのですが、実は金沢工大にオープンイノベーションの産学連携プラットフォームがあるのを発見しました。こういう取り組みが非常に大事だということで、これからもまちづくりを産官学連携でやっていただければと思います。

 最後は、アントレプレナーシップです。サラリーマン根性をやめて、自分でやっていく。起業家精神です。

 日本が何で弱くなったかを典型的に表しているのが、「大学を卒業したらできる限り立派な大きな会社に入って、60歳定年までつつがなく過ごす」という考え方です。こういう人生を日本国民みんながやっているので、イノベーションが起こらないのです。今日はこちら側に結構イノベーションを起こす人たちが並んでいますが、皆さん頑張ってほしいです。
 企業活動指数を見ると、明らかに弱いです。そもそも、将来会社を起業すると思っている日本人がいません。仮に、お子さんたちが「僕は就職しないで起業する」と言ったら親が泣いて止める日本ですから、これを何とかしないといけません。
 開業率が5%というとんでもない国なのです。どんどん事業承継の関係で廃業しているわけですが、開業していないので、国全体が元気になるわけがありません。やはりここを何とかしなくてはいけません。

 これは、ある人が私にくれたスライドで、シリコンバレーの序列なのですが、結構面白いと思いました。「チャレンジして成功した人」はクール、次にクールなのが「チャレンジして良い失敗をした人」です。その次が「チャレンジして愚かな失敗をした人」、最後に「失敗を恐れてチャレンジをしない人」はくずだと。一番大事だと思っているのは、失敗を尊重する文化という部分だろうと。これが日本はものすごく弱いと思っています。日本もこういう発想に転換していかないといけません。とにかく日本全体がリスクを取ってチャレンジしない国になってしまっているので、少なくとも金沢は失敗を恐れずにチャレンジする地域であってほしいと思います。
 あの、アップルの創業者スティーブ・ジョブズも過去には失敗しました。

 次は販売会社のAIです。お店の上に3、4個のカメラを付けて、店員の動きや商品の並べ方、お客さまの動きをずっと画像で撮ってビッグデータ化して、それをAIで分析し、商品をこう並べたら、あるいは店員がこう動いたら売り上げが増えるということをコンサルしています。これは日本で有名なABEJAという会社です。
 最後は東京のベンチャーなのですが、高知に人工知能の開発センターを持ってやっている会社です。受付の窓口を、人ではなく画面がやっていて、画面と対話しながら販売してくれるというものです。
 このような形で、どんどんAIが増えています。産業革新機構は、おかげさまで、特に新しい第4次産業革命を、中小企業や、生産性の低い農業など、そういうところのお役に立てないかということで投資しています。

 日本の企業と弱みということで、多様性を含んで、オープンイノベーションでアントレプレナーシップを高めることによって、元気な金沢にしていただければということで、私の講演を終わらせていただきたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました(拍手)。

(宮田) どうもありがとうございました。素晴らしいプレゼンテーションでした。聞き入ってしまいました。今すぐああいう未来が、明日来てくれないかという感じがしました。
 今日のコメンテーターとして、半田さん、今だいぶ刺激的なお話を頂いたと思うのですが、ぜひ、よろしくお願いします。
(半田) 自動運転から、日本の産業のこれかという幅広い形でのご講演ありがとうございました。
 コメンテーターというよりも質問ですが、自動運転ということで、今のレベルでもやれる自動運転は結構多いと思います。
 Uberのような使い方をして、来る車はタクシーとバスの間というか、ワゴン車のような形で、例えば非常に限られた空間。金沢なども郊外に大規模な団地があって4000人ぐらいいるのですが、団地の中には公共的な交通網が一つもないということで、やはり老人の方が、買い物などいろいろなことで困っていて、そこから去っていくような状況が起こっているわけです。そういった閉空間の中、オンデマンドで呼んで、団地のそばにあるバスストップや駅、または病院まで行くなど、そういうものであれば、今のテクノロジーでも十分可能だと思います。それを実現するに当たって非常にいろいろな規制などがあると思うのですが、日本の規制緩和というか、何かネックになっていることがあれば教えていただきたいと思います。

(志賀) 自動運転というと、何となくお酒を飲んで運転できたり、無人で運転できたりでいいなという感じなのですが、必然的に交通事故を減らしていくというのと、移動困難者、特に高齢になって免許返上してなかなか移動ができない方々を助けていくということで、「日本再興戦略」「未来投資会議」という総理が直接議長をやっている会議の中でも、この自動運転を国の政策として積極的にやっていこうと決められています。実は、われわれメーカーの方があおられるぐらい、この分野において国は進んでいます。
 ですから、そういう意味で言うと、あまり難しいことから入らずに、プラクティカルに、実現可能なところから入る。今まさに言われたように、例えば全部自動運転の、運転手がいない車の走行を認めろというとハードルが高いですが、移動の手段のない集落、あるいは移動の手段のために自治体が介護バスや介護タクシーを出して税金を使っているところは、税金の節約ができるし、その辺におられる方々が移動できることになるわけです。
 最初はA地点とB地点を決めて、そこの地図をしっかりセットして、その間は白線を引いて移動できるようにしてしまえば、国の許可もその間だけだったらいいということになってやりやすいと思うのです。スクールゾーンが近くにないとか、いろいろなことを考慮して、運転手なしのロボットタクシーでもいいという点と点を増やしていって、徐々に面にしていくようなアプローチがいいと思います。
 結構私の感じとして、規制緩和については、国が積極的にやってくれているので、われわれ自動車メーカー側はプラクティカルな提案をさせていただいています。先ほど言いましたDeNAとのプロジェクトも、実はそういう狙いなのです。ある地点とある地点だけは自動運転で許可を頂いてやってみようというのが、来年3月から始まります。そういうアプローチが大事だと思います。

(半田) ありがとうございます。そうすると、ものすごく高級な車でなくても、しいていえばゴルフカートのような電気自動車的なもので、AI的に自走できれば、あまりコストをかけずに実現できる可能性もあるということですね。

(志賀) あります。これも実証実験でやっています。例えば工場の中で、下に線を引いてその上を伝って走っているAGVがあります。あれでA地点、B地点をつなごうという実証実験もされています。現実的な解を一つずつ広げていくのがいいかと思います。
 日本が高齢化社会になってきている、人口減少だといわれているわけですが、これはまさに自動運転などでは逆手に取れるわけです。要するに、高齢化社会であるが故にタクシー業界も人手不足で悩まれているわけですから、ロボットタクシーが増えてもそれほど大きな社会問題にならない。逆風を逆手に取って、こういう技術をどんどん普及させるということが大事ではないかと、私は思います。

(半田) どうもありがとうございました。

(宮田) 他に質問したい方も結構いらっしゃると思いますが、何かある方は挙手をしていただけると。フロアの方でもいいです。せっかくの機会なので。どうぞ。

(Q1) とても面白かったです。

(志賀) ありがとうございます。

(Q1) 自動車会社にとっても危機ですよね。それで、システムを最初に開発したところは全部取ってしまいますよね。そうなると、いきなり国ごとの単位でシステムが変わってくるのか、あるいはEUあたりだとEU基準ができていくのか。そのあたりの見通しはどうなのでしょうか。

(志賀) おっしゃるとおり、いわゆる標準化競争では、いつも日本は負けていたのです。技術的には日本が開発するのだけれども、グローバルスタンダードになると、ヨーロッパ、アメリカのスタンダードに負けてきたという感じです。それで日本はガラパゴスになって、結果的に世界市場を取れずに負けていくというのが、いつものパターンなわけです。
 今回、幸運なことに、自動運転については、国連が中心になって標準化の作業をしています。実はこれはわれわれが想像しているよりも進んでいます。先ほど言いましたレベル1〜5なども、実は国によって基準が若干違うのですが、基本的にはそれも合わされてきています。特に車は人の命に関わっているので、あまり基準競争をやるのではなく、やはり基本的には交通事故をなくす、人の命を大切にすることを眼目にして、世界が協調すべき領域だと私は思っているので、国連を中心にそういう動きが進んでいるからいいのかなという気がします。こと電気自動車、自動運転に関しては、日本が同じ道にはまらないようにしなければいけません。
 これも日本だけになっているのですが、私は実は電気自動車の急速充電器、CHAdeMOの会長をまだやっています。でも、これは頑張っていて、実は世界のグローバルスタンダードになりつつあるのです。ですから、だんだん日本人も賢くなってきたので、最初から標準化を念頭に置きながら技術開発ができれば、日本だけのものにならなくていいのかなという気はします。よろしいですか。

(Q2) 自動運転の話ばかりで恐縮ですが、もし本当にきちんと自動運転化されれば、道路の車線はそうたくさん要らないように思います。そういうことは道路の方で、例えば国土交通省など、つくる方の人たちも入って、何かいろいろなことを研究されておられるのでしょうか。

(志賀) はい、やっています。特に高速道路では、最初から全部つながるわけにいかないので、例えば大型トラックの隊列走行というものがあります。大型トラックの運転手も人手不足で大変なので、先頭のトラックだけ運転手がいて、後ろの運転手は寝ていていいというもので、その隊列走行を認めるという検討を、国交省とも一緒になってやっています。これは、人手不足対策と、とにかく安全対策と、それから渋滞予防です。これは渋滞が起こらないので非常にいいことです。そういうことを一緒になってやっています。
 ですので、例えば将来的に言うと、自動運転機能を持ったトラック、乗用車の車線ができる。そのときには、車両間通信というのですが、ITSスポットが付いていて、道路と車が通信しながら、その車線だけ走っていくことになってくると思います。最終的にそういうのが増えてくると、そういう車線も増えてきて、みんながつながった車になると、今度は渋滞がなくなります。結局、全く電車と同じになっていきます。ものすごく短い車間距離で、だーっとみんなが移動していくという。これを道路・車というのかという。
 東京の方は分かるのですが、新橋に無人電車の「ゆりかもめ」があるのですが、オンデマンド「ゆりかもめ」になるのではないか。自分の目の前に「ゆりかもめ」が現れるということです。時間で走っているのではなくて需要に合わせて走っているような、「ゆりかもめ」はレールの上を走っているわけですが、道路の上もそういう形になってくるでしょう。だいぶ先だとは思いますが。

(宮田) ありがとうございます。まだまだいろいろお話をお聞きしたいと思うのですが、今日は本当に素晴らしいお話を聞かせていただきました。志賀様、どうもありがとうございました。

(志賀) どうもありがとうございました(拍手)。


 

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