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小野寺 五典 氏
(衆議院議員、元防衛相、自民党安全保障調査会会長)

●プロフィール
おのでら・いつのり 1960年、宮城県生まれ。93年、東大大学院法学政治学研究科修了。宮城県職員などを経て97年12月、衆議院宮城6区補欠選挙で初当選。外務大臣政務官、外務副大臣、防衛相(第12代・第17代・第18代、いずれも安倍内閣)、衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会委員長等を歴任し、2018年から自民党安全保障調査会会長。22年4月、自民党安全保障調査会でとりまとめた、新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言を岸田首相に申し入れた。

小野寺氏の講演要旨は次の通り。

国家安全保障戦略を見直し

 今の仕事は、自民党安全保障調査会会長で、防衛分野の責任者です。そして、3度防衛相をしました。私は宏池会岸田派ですから、昨年、岸田文雄首相が誕生したとき、真っ先に国家安全保障戦略の見直しをお願いしました。2013年に当時の安倍晋三首相、岸田外相、防衛相の私で大枠を作ったのですが、周辺国の安全保障上の脅威ががらっと変わりました。戦争の仕方もです。それを基に今年の暮れまでにこの戦略を直したい。
 9年前、当時の防衛相の私が一番気にしたのは北朝鮮です。しかし、まだ核開発のスピードは遅かった。中国はちょうど1隻目の「遼寧」という中古空母を使おうとしていました。ロシアは安倍・プーチン関係でひょっとしたら話し合いで北方領土は返ってくるかもしれないという状況でした。ロシアと事を構えるなど、おおよそ想定していません。
 ところが、私が大臣に再任されて経験したのは北朝鮮の核実験です。おそらく間近にはまた実験が行われるでしょう。中国は、既に3隻目の空母艦隊を就航させようとし防衛力の伸びはこの数十年間で40倍です。最新鋭の戦闘機、潜水艦、1000発以上の弾道ミサイルを持つ国になってしまいました。そして今回、ロシアから見れば経済制裁をした日本は敵国です。これが日本の置かれた環境です。世界で一番厳しい状況だと思います。だから、世界から安全保障関係者が私のところに毎週のように会いに来ます 。
  戦い方の変化が初めに実証されたのが14年にロシアが初めてウクライナに侵攻したときです。ロシアは軍事侵攻前に、サイバー攻撃で携帯電話の基地局を乗っ取り、通信網を止め、偽のSNSメールを流して、ウクライナの人たちを混乱させました。その後にサイバー攻撃で原発の機能を停止させ、大規模停電を起こした。車のラジオからロシアが作っていた偽のラジオ局のニュースが流れました。最終的には人工衛星のGPSの情報です。これが狂わされると防衛装備も、軍の車両も船も混乱します。そして、いつの間にか侵入したロシアの軍隊がクリミアを占領した。
 戦争の仕方が大きく変わったから、今まで考えてきた安全保障環境はがらっと変えなければいけない。これだけの課題に合わせて国家安全保障戦略を作ります。防衛省と掛け合いで自民党がやっています。相手基地まで届く、いわゆる敵基地攻撃能力を私は反撃能力という名前にしました。これを保有するかどうか、防衛予算をどのぐらい増やすか、公明党との与党協議ですることになります。いろいろな報道が出ていますが、何も決まっていないのです。これからが大事な局面です。
 現代で戦争は軍事合理性に合いません。しかし、それを乗り越える問題があります。どの国も経済合理性の前に、領土を侵されることというのは決して許されない。国民の気持ちが一気に強い後押しとなります。その中で蓋然性が高いのは台湾の問題です。台湾統一は中国の国是です。平和裏に統一されれば、外交上日本が四の五の言う話ではないが、力による現状変更が許されてしまうと、次はどこか。 
 米国は台湾支援のスタンスを崩していません。中国に対してそれなりの厳しい対応を取り、台湾の方に立つ。そのとき、日本に当然応援要請が来ます。これはとても重い話です。直接自衛隊が戦うのか、あるいは補給支援をするのか。何らかの対応をしなければ、日米同盟はおそらく終わります。


力の均衡は崩れている

 日米同盟が終われば日本は単独で、あれだけの能力と核を持っている中国に対応しなければなりません。そんなことは想定できないし、選んではいけない。米国に一定の支援をすれば今度は日本が敵になります。中国に進出している日本企業の資産は没収、残っていた駐在員は拘束、さらに海上封鎖で物資が入ってこない。日本国民は塗炭の苦しみです。防ぐ方法は一つです。中国に軍事力をもって台湾統一をさせないことです。
 紛争が起きる二つの理由があります。私の見方です。一つは感情が良くない国同士でたまたま何かの衝突事案があったとき、互いの国の政治家がナショナリズムを煽りに煽り、どちらの国も引くに引けない状況になって、最後はやるしかないと。これは政治家が冷静に判断すれば、外交で一定の解決策が見いだせるかもしない。
 もう一つは、両国の軍事力の差が決定的に開き、弱い国が反撃できないときです。中国が力によって台湾に侵攻しない。そのための最大の抑止は話し合いではなく、力です。やったら決定的に自分のところにも厳しいことが来る。採算が合わないから話し合いにしておこう。これが平和を保つために大事なことだと思います。
 しかし、均衡は崩れています。東アジアで中距離弾道ミサイルは、中国とロシアで千数百発あり、日本、米国の陣営はゼロです。航空戦力は、第4、第5世代の航空機は中国が圧倒的です。30年前、自衛隊は東アジアでトップクラスの能力を持っていました。ところが、日本の防衛予算は、ほぼ5兆円の横ばい。30年間減らなかったからいいだろう、ではないのです。23万人の隊員がいる自衛隊予算のかなりの部分は人件費で、当然上がります。最新鋭の戦闘機、新しい戦車の値段は2倍、3倍です。しわ寄せで日本には弾薬がない。
 航空自衛隊も陸上自衛隊も飛行機を持っています。視察すると、格納庫に骨組みの航空機がある。「整備中か」と聞くと、「違います。これは部品取りしているのです。戦闘機を飛ばすと消耗してしまう部品があります。でも、部品を買えません。だから、この飛行機に犠牲になってもらって、部品を外して他の飛行機に付けるのです」。部隊では共食いと呼んでいます。当然、周りの国も見ています。「以前の自衛隊は大変な能力を持つ部隊だった。でも、今はどうなのだろう」。もしそう思われたら紛争が起きるかもしれない。だから、防衛費をしっかり伸ばすことは戦争にならないためのメッセージになる。


防衛費NATOは2%、日本0.9%

 そして、なぜNATO基準の2%という目安があるのかという話です。西側の国がまとまっていこうとしています。日本もNATO、G7の国と一緒に力による現状変更をしてはいけないという声を発している立場から、努力しなければ口先だけの国になります。今はGDPの0.9%です。こんな数字はとても国際会議では言えません。同じ努力をしなければ相手にされません。
 今の戦争で真っ先に来るのは戦闘機や軍艦ではなく、相手の領土から飛んでくる弾道ミサイルです。撃ち落とすのは大変な技術です。バンと撃った拳銃の弾にバンと撃って当てる。これはすごい技術でしょう。ミサイルはもっと速い。たくさん来たら防げない。だったら、撃たれたものは撃ち落とし、2発目を撃たせないために倍返し。こうしなければ相手は好き放題撃ってきます。相手の領土にある施設をたたかないと撃たれてしまう。
 そういう意味では今まで戦後一貫して相手の領土を攻撃することはないと国会で答弁していました。憲法ではやっていいことになっているのです。しかし、歴代政権は「これは、日本は持たない」と言い続けました。だが、今の安全保障環境と実際の防衛装備を見たら、もうそんな時代ではない。反撃能力を持つことは、先制攻撃ではないのです。それを日本として持つように政府が決断する。何よりも国民の皆さんの理解が一番大事です。
 私は日本の平和憲法は決して悪い憲法だと思っていません。ただ、日本の憲法は、国連憲章を強く意識してできた憲法です。集団安全保障体制で国連軍をつくり、加盟国が攻撃を受けたら全員が束になって立ち向かう。そうしたら誰もが怖くなり、世界から戦争がなくなる。国連が保証します。これが国連憲章です。
 では、本当に国連が目指す世界が来るか。世界中が「それは無理だ」と考えるのが普通と思います。常任理事国は絶対パワーを持つ。でも、国連ができて以降ずっと、戦争の当事者はこの国たちではないですか。今はロシアです。中国は力による現状変更と、私から見たら威嚇をしている。とても国連が戦争のない世界を保証するなんて考えられません。
 その前提で作られた私たちの憲法がそのままでいいのか。残念ながら国連が機能できないとすれば、二度と核兵器を落とさせない国、これを選ぶしかないと思います。抑止力を高めて、相手の国に見くびらせないで、そして、核の傘の中で二度と核を落とさせない、そういう体制を取るしかない。その選択が私たちに問われていることだと思います。






 

 

 

 

 

 

 

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