第7回金沢創造都市会議

金沢創造都市会議2013 >セッション1

セッション1

■セッション1 「都心の求心力に向けて」

コーディネーター 
水野 一郎氏(金沢工業大学副学長)
パネラー 
大内  浩氏(芝浦工業大学特任教授)
水野 雅男氏(法政大学教授)
ゲスト
西本 千尋氏 (潟Wャパンエリアマネジメント代表取締役)

 

 

 





木造都市特区やオープンイノベーション手法の活用を 
   

(水野一郎) 創造都市会議はいろいろなことを提案してきました。金沢のあちこちで行われている夜間景観、沿道景観を整備しようという提案、南町界隈のコンバージョン、金融単機能の町から多機能の町へ転換させようという提案。街中カフェ、町家の利用など、さまざまな提案をしてきました。絶えず金沢の現状を把握しながら、実現できる施策は何かないのかということを考えてきました。その中で、今回は2015年の新幹線開通、さらに2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催をきっかけに、金沢の都市力、創造力を高める必要があるのではないかということで、都心の求心力強化、都心をどのように補強したらいいか、修正したらいいか、あるいは再編集というのもあるのではないか、あるいは新しくつくることもあるのではないかということです。
 飛田会長のお話にあったように、判定負けにならないようにしたいものだなと思います。2020年としたのは、東京オリンピックもそうなのですが、このセッションで議論することを少しリアリティのある、実現性のあることで考えるために、2020年ぐらいをめどにということでいきたいと思います。
 最初に4人の方から10分ちょっとでいろいろなご提案を頂きたいと思っています。その後、討論に入って、あるいは会場の方からも何かご意見が頂ければと思います。

(大内)実は都市には三つの大きな機能があります。住む、働く、遊ぶという三つの機能があるのですが、実は20世紀の都市は、この三つを切り離してきてしまったのです。都心で働いて郊外に住むというのが20世紀の姿で、これは日本だけではなくて、恐らく世界もそうで、それに私たちはあまり疑問を持たないでここまで来ているのです。しかし今、最先端の人たちがどこで活躍しているか、新しいことをやっているかを見ると、一つは都心にもう一度焦点を当てようと。もう一つは、最先端のことをやっている方たちの中には、ある意味で現代の文明に対するアンチテーゼのような田舎暮らしをしようという人たちもいます。
 都心というものをもう一度見直すことが、やはり21世紀のモデルにとってすごく大事だと思っています。私も東京で生活していますが、全国のいろいろな都市に伺っています。東京に行くと、そろそろ帰る時間ですよと終電の時間を知らせてくれるようなアプリを携帯に搭載する方がほとんどです。しかし、終電車を気にするような生活から果たして文化が生まれるのでしょうか。さまざまな文化的な活動やお互いの会話がせっかく核心に入ってきたときに、もうそろそろ帰らなければいけないということで時間が来てしまうことがよくあります。
 例えば劇場や美術館や会議場はやはり郊外立地ができないので、都心というものがどうしても必要です。そういう意味で機能の複合化が必要なのです。都心に非常にマルチな、住む、働く、遊ぶの三つの機能を集約する。それ以外でもいいのですが、それを複合化していくということが、これから必要になってきます。ですから、どのような都市機能の複合化が創造力を発揮するのかについて考えなければいけないし、世界の都市は複合力を競う時代になったということです。
 東京は昼間の人口と夜の人口が実は8倍ぐらい違うのです。これは1ha当たりの人口ですが、中心部ですと昼間は596人だったのが、夜になると89人になってしまうのです。ところがロンドンではそんなに落差はありませんし、パリに至っては逆に夜の方が、人口が多いのです。これがパリの非常に面白いところです。ニューヨークも少しは減りますが、減り方は東京に比べるとずっと違います。つまり、東京中心部の人口は世界の大都市と比較しても非常に昼夜間の差が大きく、そのことが都市文化の魅力を失わせていて、都市インフラの効率を非常に悪くしているわけです。パリの中心は昼より夜の方が人口が多いですから、劇場やカフェが夜遅くまで開いていて魅力的で、ニューヨークのマンハッタンにもたくさんの人が住んでいるということです。
 私がずっと立ち上げのころから関係していた豊洲の町は50haあって、もともと石川島播磨造船所の跡地です。これどうするかといったときに、住宅やオフィスや商業地、教育機関等を複合開発するという考え方は、新宿の西口とは全く違います。新宿の西口には住宅は入っていません。
 この写真ですが、ほぼこの形で出来上がりました。1994年ごろ、石川島がまだ造船所を経営していたころです。これは今、芝浦工大の豊洲キャンパスなのですが、全く塀のないキャンパスで、ここに造船所の跡を残した「ららぽーと」ができています。

 次に私が申し上げたいことは、オープンイノベーションが可能になる時代が来たということです。オープンイノベーションとは、いろいろなアイデアを創造するときに、さまざまなIT技術も使って、極端な話、あらゆる世界中の人たちの意見を結集することができる、つまり専門家とは異なる視点から創造が可能になったということで、もう一つはユーザーの立場からの改善が期待できるわけです。
 具体的な例として、サンリオの例を申し上げます。キティちゃんはご存じだと思いますが、キティちゃんは実はたくさんいるのです。
(以下 スライド併用)
 実は、世界の5万点以上の商品にキティちゃんがいて、ご当地キティちゃんもいます。サンリオも昔はただグッズを売るだけの会社だったのですが、つい最近、非常に大きく会社の方針を転換しました。具体的には、ライセンスなのです。基本的にサンリオが基礎になるキティちゃんの画像は提供するのですが、それに修正を加えて結構なのです。ただし、修正を加えた場合には、ある種のライセンス料を払う必要があります。サンリオは売り上げに応じてライセンス料を受けます。これは実はIT業界からスタートしたオープンイノベーションという手法の活用で、結果的にたくさんのキティちゃんがいて、今、実はとんでもないぐらいに世界中でキティちゃんが現れてきています。

 つい最近、千葉市で公共部門のいろいろなデータは公共財だ、だからまちづくりにもビッグデータを活用しようではないかということで、民間の知を集める試みが始まっています。公共のビッグデータでは、もちろんセキュリティを確保する必要がありますが、新聞記事では、ちょっとした感染症が流行していくのを瞬時に確認できるようなソフトが開発されたという事例が紹介されています。
 これは銀座です。今、銀座通りと晴海通りには完全に無料のWi-Fiが飛んでいます。私はあまりIT人間ではないのですが、これをやってみました。今、東京ユビキタス計画というのが動いています。ICのタグがそれぞれの交差点ごとにあり、それを読み込むと、「ココシル銀座」というアプリが起動して、そこを使ってさまざまなことができるようになっています。店の案内やトイレの場所、バリアフリールートがどこにあるかもガイドされます。
 これは東京都と国土交通省で発表しているので、皆さんも確認することができます。東京では、2020年にオリンピックとパラリンピックが開かれますが、これは実は銀座の表通りの地上だけではなくて地下も機能していますので、例えば障害者の方たちがある場所から別の場所までたどり着くのに、車いすでスムーズに移っていけるルートはどこかが瞬時に自分のiPhoneに出てくるのです。そのようなものを今やっています。
 この実験計画の中身、核心は、全て公募によるアイデアだということです。要するに、東京都や国土交通省がこうしろと言っているのではなくて、毎年公募でアイデアを募集して、その中から良いものを実験するということが延々と行われているのです。

 「クール・カナザワ」ということですが、「クール・ジャパン」の問題意識は、日本人の良さを日本人自身が意外に気付いていない、日本の良さを上手に発信できていないということで、そこから「クール・ジャパン」のさまざまな試みが実施されています。経産省の試みもそうですし、NHKのBSで行われている番組などもそうです。また、今度の新幹線の車両のテーマは「和の未来」です。その新幹線から降り立つと、さらに「和の未来」が開けるような演出を金沢は求められているわけです。
 「クール・カナザワ」をこれからどのように構築化していくかで大事なのは、もちろん金沢人がやるのは結構なのですが、同時に非金沢人による鋭い指摘など、金沢の外へ発信することが効果的に展開されないとうまくいきません。今日、和食もユネスコの文化遺産に登録されました。

 実はネットで金沢の観光ガイドを検索すると、すごい情報量が出てきます。これはそのトップページです。この辺りで幾つか動画も見ることができます。私は『百工比照』にすごく興味があるのですが、県が非常に苦労をされてデジタル百工情報書府というものを作られていて、すごい力作なのです。一つ一つを見ると大体20分の動画が出てくるのです。すごい力作なのですが、果たしてこの20分に付き合ってくれる人が一体何人いるだろうかというのは疑問です。だから、これはこれですごく大事なことなので、これをやるなということではなく、ものすごく出来が良いしお金も掛かっているのはよく分かるのですが、もっと肩の凝らない簡略なものを民間の方たちで、オープンイノベーションで作り直す姿勢をつくるのも必要だということです。

 外から来る外国人がかなり頼りにしているトラベルガイドというサイトがあります。実は埼玉に住んでいる民間のある外国人が運営しているサイトで、非常によくできています。外国人、あるいは東京の人でさえも、金沢の位置が正確に分かっていない、そういう人たちにとってもよく分かるサイトになっています。
 ミシュランのツーリズムガイドは、途中まではなかなか良いのですが、あるところから先では、金沢の観光協会の動画サイトに飛んでしまって、ここをクリックするとまた20分のすごく重い動画が出てきます。もうちょっと何とかならないかなと思います。
 新幹線の開通で、金沢は「和の未来」がテーマです。新幹線から降りると、金沢では過去から現在、未来に至る究極の和の世界が実感できることを来客は期待しているわけですから、それに応えていかなければいけません。
 最後ですが、究極の和を演出するために、何らかの特別区を指定して実験を始めた方がいいと思います。一つは水野先生がご専門ですので、後ほどご紹介あると思いますが、例えば世界にない木造都市へ街を改修・改造する。法律の改正や技術の進歩によって、5階建て、場合によっては10階建ての木造ビルを造ることがもうできました。公共施設も可能になりましたので、学校などは木造化しているのはご存じだと思います。例えば、都心に複合機能としてどうしても必要な大型の会議施設を木造で建設してみる。そういうことを金沢でやられたら、それに伴っていろいろな技術も進歩すると思いますし、もちろん話題性も出てきます。木造で街ができるというのは、やるとしたら、世界中で日本しか、恐らく金沢しかないと思うのです。全国にも小規模ではできると思いますけれども。
 もう一つ、伝統工芸のデザインや手法で、先ほどサンリオの例をお話ししたように、ライセンスビジネスを展開するということです。金沢には『百工比照』で培った型紙やデザインの原型があるわけで、もったいないのでそれを世界に提供するのだけれども、例えばそれをライセンスによって展開するというようなことを立ち上げたらどうでしょうか。あるいは町家の再生について後ほど水野雅男先生からご紹介いただけると思いますが、そういうことについても、オープンなアイデアでどうやって展開するかが、多分、今、最も大事なのではないでしょうか。

(水野雅男) 私は市民サイドでこれまで取り組んできた活動を紹介しながら、これから都市が目指すべき方向について話題提供をしたいと思います。まず最初に、瀬戸内国際芸術祭が今年も開かれました。100万人ぐらい訪れているということです。もう一つ、それと似た、カナダの人口1万人ぐらいのソルトスプリング島という小さい島にも、海を渡って、アートなどを求めて観光客がたくさん押し寄せています。
 その二つを見ると、私はクリエイティブツーリズムを実践しているのではないかと思います。アートコアなるもの、美術館やギャラリー、アトリエ、アーティストや工芸作家の制作工房、そしてアコモデーション、アーティスティックな滞在施設、ガイデッドツアー、少人数のガイドツアー、そしてモビリティ、地域環境を楽しめる公共交通です。特に島へ渡るということは非日常的な公共交通を利用するわけで、楽しいということです。そういう三つのAとGとMが必要なのではないかと思いました。
 金沢市では、2004年に21世紀美術館がオープンし、2009年にユネスコの創造都市ネットワークに認定されました。それと合わせるようにして、市民でもアトリエをつくるといった活動もしていますし、アートコンシェルジュ、アートツアーを企画して実施してきています。詳しいことはこれから紹介しますが、それをもう少しさかのぼりますと、1999年、ちょうど21世紀美術館の準備室がオープンしたときに、金沢大野くらくらアートプロジェクトが立ち上がったわけです。それから毎年のようにアート関係のプロジェクトが動いていって、今に至っているわけです。そこにその実行委員会やシェア町家など、幾つかの市民の組織団体がぽこぽこと起きてきて、それぞれに連携しながら活動を展開してきたということです。
 最初にアトリエということで見ますと、金沢大野くらくらアートプロジェクトではしょうゆ蔵をコンバージョンして、アーティストのアトリエをつくるということです。その中に入っている山本基は、今ちょうどロシアのエルミタージュ美術館で作品を展示しています。このように、大野に活動拠点を置きながら世界に展開しているという作家も輩出するようになりました。
 もう一つ、町家で言うと、大きな町家をシェアして活用するということで、2010年から四つのプロジェクトが動いていて、今、ドミトリー2軒、シェアアトリエが2軒オープンしています。これは染物店だったところを改造して、アーティストや工芸作家やデザイナーがシェアしている例です。これは芳斉町にあります。もう一つは東山荘です。これも6組でシェアしています。そういう形で、歴史的なもの、資産を活用するということに取り組んでいます。
 2週間前に放映された映像を1分間だけご紹介したいと思います。
***ビデオ上映***
 こういう形で、ドミトリーや共同アトリエ、シェアアトリエに生まれ変わっているわけです。そして、ガイデッドツアー、少人数のガイドツアーに関しては、われわれは金沢クリエイティブツーリズムという名称を付けて、先ほどの山本基のアトリエを秋元館長と訪ねたりもしました。そういうツアーを大体毎月1回、この4年間ぐらい続けています。
 もう一つ、アコモデーションで言うと、建築訪問の中で訪ねたのが金沢西病院です。この病院をリノベーションするときに、金沢で活躍する陶芸作家の作品を陶壁に使っています。これを応用して、例えばホテルの客室を、工芸作家やアーティストの作品で飾ることによって、オリジナルな空間をつくることができると思うのです。ちょうど2日前にBSを見ていましたら、ボローニャのホテルの例が紹介されていて、マンガ・エキシビションに招待された作家が、ホテルの壁面などに絵を描くということをやっていて、それでオリジナルの空間をつくったりしています。そういうことも金沢でできるのではないかと思います。このように、今さまざまな活動が市民の中で動いていて、それが結果としてクリエイティブツーリズムの資源を生み出していき、ネットワークをつくっています。
 最後にモビリティです。ストラスブールは金沢と同じぐらいの人口規模で、中心市街地も2km2ぐらいと町の規模もほとんど同じですが、大事なのは、運河で囲まれている中にある一部の道路や路地は、車を制限して歩行者優先にしていることです。車第一ではなくて歩行者を優先にしているところがポイントです。今さら路面電車をとは申しませんが、自転車についても、フランスで真っ先に取り組んで、今、Vélhopというレンタサイクルも導入していますが、あまりデザインが良いとは思いません。われわれはこちらの方が良いと思っていますが、金沢で導入しているのは「チャリdeアート」です。
 ちょうど金沢と同じように、ここにTGVが入ってきました。新幹線でパリと直結されたのです。それに合わせて、旧駅舎をガラスのドームで囲って駅舎を拡張したわけです。そのデザインもさることながら、その中でトヨタとフランスの電力会社が協力して、プラグイン型のプリウスを100台導入して、3年間走行実験を行っています。あるいは、これは交通パンフレットに載っていたので、まだ実用化されていないと思いますが、未来型の乗り物を導入すると書いてあります。2013年からと書いてあるので、近々こういうことをやるのだと思います。ストラスブールがこういう新しいことに世界に先駆けて取り組む姿勢は大いに見習うべきではないかと思います。
 クリエイティブツーリズムのシティとしての金沢を目指す。そのために、いろいろな形で、アートコアですと、21美だけではなくてギャラリーストリートをつくるとか、シェアアトリエをもっと大きくしていく、ネットワークが拡大する。あるいはホテルや町家のゲストハウスなどにアートを取り入れ、ツーリズムについてはビジネス化していくということです。そして、日本や世界に先駆けて、スマートモビリティを導入するということと、人を優先するような交通秩序を宣言して取り組んでいくということが、金沢に求められるのではないかと思います。

(西本) 株式会社ジャパンエリアマネジメントの西本千尋と申します。よろしくお願いいたします。
 私は大学を出てすぐ、仲間と一緒に自分の会社をつくりました。ジャパンエリアマネジメントという会社なのですが、エリアマネジメントとは、自分たちの日常空間を自律的につくって更新できるような仕組みのことだと考えています。そういった仕組みづくりを手掛けるとともに、特に全国一律の規制がある中、何かしら地域の個性が生かせないか、規制があるので更新できないものがあったならば、その全国一律の制度を改正することを中心に、8年ぐらい活動してきました。全国一律の規制ではなく、地域が独自の個性を持った地域ルールを生かして、生活文化、食文化、伝統工法といったものを生かせないかということで、二つの規制緩和特区に携わらせていただきましたので、今回少しご紹介できればと思っています。
 一つ目の規制緩和としては、エリアマネジメントアド(エリアマネジメント広告)、イベントというように名前を挙げているのですが、目的としては、主に都市部のディベロッパーやゼネコンや企業や自治体などが連携されて、エリアマネジメント団体やまちづくり団体を組成されているのですが、そういった団体の持続的な自主財源が不足しているという現状があります。企業が会費を出したり、商店街の会費などで成り立っているところはなかなかなくて、補助金が投下されています。ただ、持続的に町を経営、運営、更新していくときに、自主的な財源はどこから創出するのかという課題が各地域であります。そちらを何とかできないかと思って、皆さんと一緒につくり上げていったのがこの事業です。どうやって自主財源を創出するのかというと、現状、屋外広告が無秩序に広がっています。屋外広告物条例や景観条例、景観計画などがありますが、都市部には屋外広告がばらばらと散在してしまっているのを、その地区がきちんとしたルールを自分たちで持って、どこに配置するか、大きさはどうするか、誰がそれを管理するかを決めて、広告収入を上げたら、その何パーセントをまちづくり団体に還流するという仕組みを全国各地で広げられないかといったときに、法的というか、制度的な課題がありました。
 つまり、道路法や道路交通法で占用許可や使用許可が下りにくいといった現状があったのです。広告に限らず、金沢では皆さまは非常に上手に成功されてやられているかと思うのですが、他の地域だと、例えば道路を封鎖してイベントをやるなどは、占用許可をもらうのに何カ月もかかってしまったり、使用許可が下りないので交通止めができないから、ちょっとイベントはどうなのという課題があったりして、にぎわいある空間設計、空間の使用を行っていきたいというニーズがあるにもかかわらず、実際の道路占用許可や道路使用許可が下りにくいという現状があって、広告が出せない、例えばオープンカフェを恒常的に道路に置けない、そもそもイベントが実施しにくいといった具体的な課題がありました。
 写真は、東京の丸の内の三菱1号館という美術館の前のアプローチになっているのですが、そこの広場でイベントをやって活性化させる許可をどうやって得るか、横浜の赤レンガ倉庫の前の広場で日常的にイベントができるようなルールをどうやって作るかなど、いろいろな課題があったわけです。右側が殺風景な空間となっていますが、こういった広場の占用許可・使用許可が下りにくいといったものを、地域のまちづくり団体が行政や民間企業と一緒になって、自分たちはこういうふうにイベントをやりたい、広告を掲出したいなど、自分たちのソフトのルールを明文化して持っていくという取り組みを各地域でお手伝いさせていただいています。
 これは制度改革の流れになるのですが、最初は2006年ごろに内閣府の構造改革特区に申請したり、その次に規制改革会議に提言するなど、全国各地で自主的なまちづくり活動が行われている中で、広場の活用、道路の活用を民がもっとしやすくなるように規制改革、制度改正の提言をしたという形になります。
 今回、皆さまのお手元に配っていただいた資料には、安倍総理が行っている国家戦略特区の2番目に書かれているエリアマネジメント改革(一元化、民間開放)の提言が一層緩和されたものが一つ盛り込まれています。この運動論の続きとして、国家戦略特区では、民間が道路の占用をもっとしやすく、民が公共空間を活用しやすくなるというものが実っています。
 例えば東京駅の駅前の広場はこういった状況になっていて、普段は使えない、使いづらいという問題があるのですが、この広場をどのように活用していくかを考えています。ここは大手町、丸の内、有楽町というエリアなのですが、この頭文字を取って、大丸有エリアマネジメント協会というまちづくり団体があります。三菱地所が事務局をされていて、千代田区や東京都と折衝されて、こういった広場をにぎやかにするための地元のルールを積極的に作り、イベントをできるようにしたり、街路灯の広告を販売し、その収入をこのエリアマネジメント団体の自主財源に充てるといった取り組みをされています。
 こちらは大阪の梅田駅の北のうめきた地区というところで、新しく今年4月にオープンされました。この広場には、どのようにイベントをすればいいか、広告を貼ればいいかというソフトのルールがなかったために、なかなか活動しにくいという現状がありました。こちらも一般社団法人グランフロント大阪という再開発の事業者が、まちづくりを継続的にしようとされて一般社団法人をつくられましたが、こちらでもこういったオープンカフェを公道上、道路の上で積極的に活用されるなど、コミュニティの交通も、この団体が主導してやっていこうと。ただ、自主財源がないとこういうものもなかなか継続的にできないので、そのために広告販売の収入やオープンカフェの占用料を、行政にもお支払いする一方で、こちらのまちづくり団体の財源に充てていこうという取り組みをされています。
 2番目に、規制緩和として携わらせていただいているのが、歴史的建築物の維持・保存・活用という点です。こちらは、まずは地域の方々が受け継いだ歴史的な建物に長く住み続けられるようにということと、水野先生からもご紹介がありましたが、若いクリエーターやアーティストでも、歴史的建築物を活用して活動されたいというニーズが非常に高くなっていますので、その方たちが新たに入居して、使いやすくする、更新しやすくする、手を掛けて次の世代が継ぎやすくするための制度改正が必要ではないかということです。あとは、職人による地域固有の伝統工法がやはり取替え不可能な技術で、ハードだけ残してもソフトのそういった技術がなければ更新ができない、町を継ぐことができないので、そうした技術の保存・継承をどのようにできるかという問題で、制度改正でできるところはお手伝いできればと思って活動しています。
 釈迦に説法なのですが、何が問題かというと、住み続けたい、活用したいというニーズがあるにもかかわらず、歴史的な意匠やデザイン、構造を生かしたまま、そこに住み続けたりするのに、例えば改修や増築には大きな課題があります。建築基準法で昭和25年以前の建物は既存不適格に当たったり、増築改修に当たっては既存部分への現行基準の適用が求められたり、多くの課題があって、壊れやすいという実態があります。建築基準法だけではなくて、都市計画法で防火地域や準防火地域に当てはまるところは、こうした木の格子の町家も、モルタル塗り・アルミサッシといった町家に改修しなくてはいけないという規定があります。そのために、地域の町並みなど、一番素晴らしいポイントが崩れてしまうのを何か改正できないかということです。他には消防法、活用に当たっては非常に規制が厳しい旅館業法を何とかできないかと思って、運動をさせていただいています。
 日本の歴史的建築物、中古住宅は、海外と比べても、中古住宅としての流通を想定していないために、メンテナンスが行われにくくなっていて、耐用年数が非常に短いという現状があります。上物は、一般的に築15年〜20年で価値がほぼゼロになってしまうという実態がありますが、100年の民家がゼロというのはどうなのでしょうか。本当は維持をして活用して、継げば継ぐほど価値が高まるというようなものは、価値として何か制度設計などができないかと考えています。
 具体的にどういったアクションを起こしたかといいますと、今年の7月にあった国家戦略特区のワーキンググループのヒアリングに、初めてこちらの課題を問題提起いたしました。金沢市も加盟していただいていますが、全国の35の自治体を含む歴史的建築物活用ネットワークという全くの任意の横のつながりのネットワークを構築して、そちらのネットワークを母体として、国家戦略特区へ正式に提案を行いました。11月5日に閣議決定され、22日に衆議院を通過し、今、参議院で審議中となっています。
 日本には、城下町、港町、宿場町、門前町、街道町、在郷町、農村集落など、世界に誇る歴史地区をさまざま持っていますが、人口減少に伴って、それらが単なる空き家や廃墟になってしまっています。これらの価値をどうやって継承できるかに挑戦していきたいと思っています。
 テクニカルなことになりますが、一般的に文化財は昭和25年以前の建物であっても建築基準法の除外を受けて、保存の道という手立てが残されています。現行法では、町家などその他の文化財以外の歴史的建築物は全て、どんな新しいビルでも建物でも、新しいハウスメーカーのものでも一般の普通の建築物とされてしまって、条例で一件一件、別途、保存措置をなされたものに限って適用除外が受けられるという仕組みだったのです。
 全国で2件先行事例がありました。京都市と神戸市が条例を作って歴史的建築物を守られようとされていますが、この条例も年間1件余りにしか活用されていないということです。本当は年間100〜200件のもっと多い規模で町家や歴史的建築物が壊れてしまっているという現状が、既存の仕組みではなかなか回避できなかったので、今回、特区提案をさせていただきました。
 それは、専門の委員会を既存の審査会の前に設けることができ、こちらに歴史的建築物の知見がある先生方や大工の方や棟梁の方、まちづくりをされてきた方、民間の企業、自治体などが入られて、専門委員会を設けて、一件一件の個別の審査ではなく、委員会がまとめて専門的な知見を生かして、歴史的建築物の改修の措置を取っていこうというものが新しい特区の制度となっています。
 旅館業法に関しては、地方自治体が歴史的建築物に関する条例を作った場合は、例えば帳場を作らなくてはいけないなど、非常にたくさんの規制があったのですが、条例を作った場合においては、その一部に適用除外が認められるということが、今回の特区では実現しつつあります。
 ただ、実らなかった点がまだ複数あります。例えば簡易宿泊の事例があるのですが、こちらは戦後間もなく、一斉に労働者が寝て起きて働きにいくということを想定されたものです。皆さんが、歴史的建築物の町家で一棟貸しという新しい宿泊形態をやりたいというときに、ほとんどが簡易宿泊というカテゴリーに当てはまってきます。一棟貸しなので、家族がそこに1泊するという段であっても、トイレを2個も3個も4個も作らなければならないのです。そんな必要はないのに、過分な施設を求められてしまい、なかなか活用しづらいという実態があります。こういった古い区分ではなく、こちらの新しい宿泊施設の形態を法の中に求めていったのですが、今回は特区でも実現しなかったので、継続的にアプローチしていきたいと考えています。
 具体的にこれからどうしていくかというモデルを書かせていただいたのですが、全国一律のルールではなく、地域ごとに活用する歴史的建築物を総合したルールを作っていけないかと考えています。建築基準法、消防法、旅館業法、都市計画法とさまざまありますが、地域で歴史的建築物を一元的に審査して活用していくようなルールの体系ができないだろうかと思っています。
 今回の国家戦略特区は、各地域の方たちが、自主的に自分たちの地域でルールを作り、課題や規制改革でどうすればいいのかという部分に関しては、来年から内閣官房の方に歴史的建築物を活用する推進体制が設けられますので、国と地元の団体がこのようにネットワークを組んで、連携体制を基に建築物の活用の推進に一歩でも前進できればと思っています。

(水野一郎) この創造都市会議で昨年、あるいは一昨年にテーマにしたことが、西本さんたちの力によって、既にリアリティを持って認められてきている段階に入っています。大変うれしく思います。
 それでは私の方から再度ご提案申し上げたいと思います。町家や歴史的建築物だけではなく、金沢のような歴史的都市に木造都市特区というものをつくってもいいのではないかということが一つです。もう一つは、金沢はクラフトで創造都市に認定されています。そのことも含めて、工芸の美術館が絶対に欲しいと思っています。金沢はコンベンション都市構想を持っています。そういう意味で、国際会議場が欲しいというようなことです。三つについて具体的にお話ししたいと思います。
 これは金沢の景観形成基本図です。実は近代的都市景観創出区域と伝統環境保存区域の二つがあって、二つの間を調整するものがもう一つあります。近代的都市景観創出区域は、駅西から県庁へ行く50m道路と、武蔵、香林坊、片町、野町の辺りだけなのです。金沢の都心の場合、あとはほとんどが歴史的環境保存区域なのです。
 近代的都市景観創出区域に指定されているのは、実際の防火地域です。その他の場所はほとんど全部、準防火地域になっています。準防火地域というのは、木造を現した建築物は建てられない、増改築できない、壊すしかないという規制です。その辺は先ほど西本さんの説明にもあったかと思います。この中に、金沢の町家として60年以上経過したものが約5000軒入っています
 だから都心の木造密集地域と言っていいと思います。建築的には木密地域と言っているのですが、東京や大阪などにも時々木密地域があり、それをいかに壊して不燃化するかというのが大テーマです。日本の法律は全て都心を不燃化するとなっており、金沢の場合もこういうものがなくなるということははっきりしているわけです。ひがし茶屋街の立面図を見ると、木造の建物がびっしり並んでくっついています。
 これはその平面図です。これがひがし茶屋街のメーンの通りで、これは広見のところです。この裏通りも含めて、これが一軒一軒の平面図を全部足したものです。そうしますと、これは全部木造の一つのビルのようなものです。全部つながっているわけです。ここにあるのは中庭です。このびっしり埋まった地面に対して、この道路で呼吸し、この中庭で呼吸している、光を入れたり風を通したり雪を落としたりしているということです。
 金沢は戦災を受けませんでしたが、他の都市は不燃化するという形でどんどん都心を改造していきます。金沢は、終戦直後は焼けなくてよかったと言われていたのですが、昭和35年ごろから焼ければよかったという話も新聞の投書に出てくるのです。そのときに、焼けない町をつくろうということで不燃化政策を取るわけです。これは片町・香林坊近代化竣工記念の写真です。ここに森八があります。前にあった木造の商家を不燃化した状態で、そのお祝いです。ちんどん屋が走っていて、お祝いをしています。そのときの風景がこれです。木造町家の商家がいっぱい並んでいた風景が、一瞬にしてこのような風景になったのです。普通の木造が駄目だということで、おおよそ全国にできたのがこういう町です。木造なのだけれどもモルタルをかぶせてしまった家です。これは最近のサイディングで隠してしまった家です。全国がこんな風景になっていっているわけです。こういう風景はつくれるけれども、先ほどのひがし茶屋街のような金沢の伝統的な町家の風景はつくれないのです。
 それで、この木造都市特区を考えてはどうだということです。日本の蓄積された木の文化、木造建築を継承し、発展させている都市として世界に打ち出すということです。継承する部分としては、金沢だけではないのですが、非戦災都市で、伝統的木造建築保存地域がある都市を特区にしてはどうか。それから技術・素材の保存をやっている都市です。例えば金沢にも職人大学校というところがあって、そこで技術の保存をしています。こういうことで裏付けされています。それから防災体制整備、防災訓練、消防、耐震補強などがされています。ひがし茶屋街も200年燃えないできているわけです。先ほどの香林坊の辺りの昭和35〜40年の間にできた不燃化の建物は、今はほとんど壊されています。反対にあれが壊されていって、200年の町家の方がずっと残っているという不思議さがあります。それから、住民がそれを認めた場合という形で特区としてやってはどうかという提案です。
 一方で、近代木造建築もあります。耐震、延焼防止、燃えしろ断面など、最近いろいろな技術を使った木造のビルが建ちはじめています。これは金沢エムビルは、日本で最初の木造5階建てで、駅西にあります。駅西のすぐそばにあるビル、美術大学の予備校ですが、木造で、集成材でできています。そのようにして高層の木造ができてきつつあります。それから大規模木造ができてきています。秋田の大館樹海ドームも集成材でできた杉の木の木造です。
 二つ目の提案は国立工芸美術館です。石川は工芸王国であり、生産高、種類数、作家数、入選作家数は一番多いです。それから、県立美術館にも伝統産業工芸館にもコレクションを既に保有しています。あるいは国際ガラス展や国際漆展をずっと継続していて、そのストックもあります。さらに、金沢はクラフトで創造都市に認定されています。
 工芸の美術館は、日本で唯一、東京の北の丸公園に東京国立近代美術館の付属館としてあります。私ももう10回近く行っていますが、これは知名度が低くて来館者が非常に少ないので、ほとんど人に会うことがないぐらい空いています。知名度がないし、活動が非常に低いです。もったいないなといつも思っています。これを何とかして金沢へ持ってこられないかということです。
 金沢城への移転も提案したいと思います。金沢の方が発信力は大きいだろうと思います。太平洋側の地震対策にも寄与するでしょう。それから、東京一極集中に対しても、地方を中心とする国土活性化戦略として寄与するだろうと思います。要するに、東京に集中している国立の施設の分散化です。それから、情報化時代における工芸の府として石川・金沢という世界戦略が打てるはずです。それから、新幹線対策としての地域づくりとして、「クール・ジャパン」「クール・カナザワ」という、先ほどから出ている話に戻るのではないかと思っています。工芸品ですから、大規模施設は不要です。手に載っかるようなものばかりですから、小さなものでいいということです。
 もう一つは国際会議場です。サミットなどの中小規模の国際会議を開催できればと思っています。コンベンション都市としての施設です。これが金沢城内に建てばいいなと思っています。環境的にも非常に良いですし、セキュリティ的にもサミットなら十分できます。さらに工芸美術館とも併設できると、国際会議と国際工芸が合体する相乗効果もあるのではないかと思っています。
 今の木造都市と国際工芸美術館と国際会議場という三つの提案を申し上げましたが、これも全て一緒になってしまったらどうでしょうか。それを木造で造ってはどうかということです。そうすると、今ある三十間長屋、五十間長屋との連続性も確保されます。あるいは尊経閣文庫や『百工比照』の継承もできます。百年後の国宝になればいいなと思っています。
 先ほどからの西本さんや大内先生の話とも連続しますが、私の方から三つの提案をいたしました。以上ですが、大内先生、他の3人のお話を聞きになられて、あと自分のことで何か補強がありましたら。

(大内) それでは一つだけ。西本さんのお話を大変楽しく伺わせていただいて、ご苦労も多いということもよく分かりました。私も政策をつくったり運営したりする人たちと市民との間に入ることが時々あるのですが、先ほどのお話で、せっかく貴重な歴史的建造物を残そうと思っても、さまざまな現状の法律、例えば建築基準法、都市計画法、消防法などが障害になってできない。あるいは、道路や公園等でオープンカフェのようなものみんなでやろうとしても、さまざまな既存の法律がどこかで壁になっていてできない。さらに、それを運営する団体の経常的な活動費の出所がなかなか少ないというお話がありました。
 そのとおりなのですが、実はもともとそういうことを想定しないでつくった制度だから、そこが規制として逆にネガティブに働いてしまうことがあります。私が全国でいろいろなまちづくりのお手伝いをした過程で、なかなか難しいのは、例えば霞が関で議論していることと、地方の一現場の担当者の方たちと議論しているところにものすごく落差があることです。どちらかというとむしろ霞が関の方が割に気楽に考えているのです。大抵「現行の法律でもできるのではないですか」という議論があるのです。
 ところが現場へ行ってみると、「いや、そんなことを言ったって、そういう新しいやり方を試した実例がない」ということがすごく障害になってしまうのです。現場の担当者に能力がないというようなことではなくて、現場は参考事例を基に非常に具体的に、役所への申請書を書いたり、補助金の申請をしたりしなければいけません。あるいは警察との交渉など、さまざまなことをやらなければならないので、そこのところで前例をつくっていくことがどうしても必要です。
 一つ前例をつくると、あそこにこういう例があるからと日本全国にばーっと広めるというのは、日本人は世界一うまいのです。だから、それをメディアで広げたり、今で言うソーシャルネットワークみたいなもので広げればいいと思うのです。ここでこの法律をこのように読んで、こういう前例をつくったということが広まれば、そこから先は現場の方もそれだったらいけるかもしれないということになるのではないでしょうか。この辺のところは工夫のしようがあると思います。
 私などはいつも現場で苦労されている方の後ろから「多分それだったら、ここに書いてある法律に何とか『等』という言葉があるので、その『等』で読んでしまえ」と言います。そういったずる賢いことも含めてやって、申請をしていくということが、一つの応援としてあるというのが私の感想です。
 もう一つ、今の水野先生のお話で、お城の中に国際会議場を造ろうという話は随分昔、中西知事がおられたときにもあって、「ちょっと待ってください」ということがありました。そのときに議論したのが、「日本の財産であり、場合によっては世界の財産であるお城の中の機能を変えて、さらに新しいものを造るというのだったら、世界中の知恵を集めなければ駄目ですよ」ということです。木造でいくというのはすごく面白いと思うし、さまざまな規制もあるところですので、条件は提示しないといけません。その条件を出して、例えば国際コンペをできないかということで、ちょっと動いたことがあるのです。
 やはり金沢は、まだまだ世界に発信しなければいけないという意味では、建築の国際コンペなどはすごく情報発信力を持っています。最先端の建築家でも、江戸の、あるいは武士の文化の意匠デザインがあれだけ明確にあるところで、下手にちゃちな新しいものを作ったら、途端に古い文化の力でもってはじかれてしまうというパワーを持っていますから、心ある最先端のデザイナーであれば、そのパワーはすぐに感じるはずなのです。そこで新しいものが生まれていくということがすごく重要なのです。私は今の水野先生の工芸美術館にも国際会議場にも基本的には賛成なのですが、先ほどオープンにと申し上げたように、その仕組みを世界中の知恵を集めるというような格好でしたらいいなと感じました。

(水野一郎) オープンイノベーションですね。雅男さん、先ほど西本さんの方から国家戦略特区をはじめ、いろいろ特区の話が出ましたね。だいぶ前に進んでいるようですが、その点で雅男さんの活動と軌を一にするところがありますね。

(水野雅男) そう思います。方向性は一緒だと思います。制度のことは専門家に任せて、われわれは事例をつくっていくのが使命ではないかと思っているのですが、どうでしょうか。

(西本) 特区という点は先ほど大内先生がおっしゃいましたが、どこの地域が実例を持って、それが国の中で多分1個できたら、成功事例と国が語って全国行脚されると思います。しかし、一番最初の実例をつくる行政の方が問題です。そのときに、耐震や防火などの命に関わる問題が全国一律ではないといった場合に、加賀の知見というか、金沢の知見、先達からどうやって何百年も木造のものを守ってきたか、継いできたかということです。先生もおっしゃいましたが、ハードの基準の数値の規定だけではなくて、ソフトのルール、防災の訓練、消防の消火器をどれぐらい置くかといったハード基準で駄目と言って「もう駄目です」となってしまうのではなくて、ソフトの住民方の知恵や知見をどうやって認めていただくか。ハードで駄目だと言うと一律に駄目というようになってしまうので、先達の知恵、私たちの生活の中の生きる知恵をどのように明文化というか、ルール化するか。それをここの金沢のモデルとして、地域ルールとして、国に提案できるかがチャレンジとして求められている気がしました。

(水野一郎) そうですね、ひがし茶屋街では今でも拍子木で回っていますし、消火器の訓練などもしていますし、いろいろな形でソフトが整っているからあの街がまだ残っているということが言えると思います。それが特区になるときの一つの条件になると思います。単なるハードだけなら燃えてしまうではないかという話で一蹴されそうですが、そういうソフトをつくっていくというのは大事だと思います。木造ということで思い出したのですが、公営住宅というのがあります。あれは戦後に燃えないようにしなさい、不燃化しなさいというのが、公営住宅の原点・原則なのです。そういう通達が出ていました。私は鳥越村というところで村営住宅を頼まれて、村民にアンケートを採ると木造がいいと言うのです。よく聞いたら、「自分のところには山に木がいっぱいあり、大工さんもいる。鉄筋コンクリートで造ったら全部よそへ行ってしまうし、そんなところへ住みたくない」ということで、当時の建設省へ県の人と2年間ぐらいかけてお百度参りしたところ、「よし分かった」ということで、木造を特別に認めてくれたのです。そして、地元の材料、地元の大工、技術で村営住宅を完成させたのです。ある意味では法律違反のような感じですが、そうしたら2年後に法律を改正して通達をやめて、その村営住宅に対して建設大臣表彰までしてくれたのです。
 その後、その地域に合った公営住宅を建てていいというように方針が変わるわけです。ですから、初めの人は戦わなければいけないのだけれども、先ほどから言っているように、実績というのは必要ですね。

(大内) それがある程度、最初の実績に行くまでに、周りの方たちで法律や国等々の運用についてある程度分かっている方が応援団になってあげないと、現場は本当に大変なのです。官庁におられたOBの方たちであればお分かりだと思うのですが、一方でそういう新しいものに対して反対される方は、ネガティブなことでクレームをつけてきます。例えば広場で事故が起きたらどうするのだ。例えば公園などだと、金沢でもやったのですが、都市公園法の適用される公園ではアルコールを出せないのです。ビールやワインも駄目なのです。これには例外もあるのですが、東京などでも大半の公園の中でアルコールは出せず、ソフトドリンクしか出せません。
 しかし、ビールとワインぐらいならいいじゃないかということも実はあるのです。しかし、そこでもし酔っ払いがたむろしたらどうするのだといったネガティブな話がどんどん出てきて、それが起きたときには誰が責任を取るのだと。住人からクレームが起きると、それに対応するのは警察や行政の担当者で、非常にネガティブで嫌なことをせざるを得ないという損な役回りになってしまうのです。そのときに、「分かりました。そのご心配は自分たちで、まちおこしをやっている人たちで責任を持ってやります。私たちの責任です。ですから、警察や行政の方たちに後始末などのネガティブなものを向けることはしません」と言いました。先ほどの防火の見回りなどもそうですが、自分たちがそういうところで実績があるから信頼してくださいという方向に持っていかない限り、やはり行政は公平性などを気にします。また、メディアも含めて、もし市民、あるいはいろいろなところからクレームが起きたときに、それに対応しなければいけません。彼らにとっては非常に損な役回りになるということから、どこかで彼らを脱出させてあげなければいけません。まちづくり運動というのは、そういう役回りも実は必要なのです。

(水野雅男) 今まで金沢市は全国に先駆けて交通実験などにも取り組んでいらっしゃいました。また、私は自転車に乗っているのでよく分かるのですが、自転車の走行レーンがかなり整備されてきているのです。それは画期的なことだと思います。先ほど紹介したストラスブールも、日本全国の自転車道路の占用レーンの2倍ぐらいの延長を持っているぐらいですからすごいのですが、やはり金沢市においてもそのように取り組みはされてきていますし、フラットバスなどいろいろな形で町の中を回遊するための交通施策は取り組まれてきていると思います。
 ただし、一番基本に据えなければいけないのは、中心市街地のどこかにエリアを設定すればいいと思うのですが、そのエリアでは歩行者を第一に優先するというヒエラルキーを明示するような交通に関する条例や施策が必要なのではないかと思っています。そうすることによって、町の環境が随分変わるのではないかと思います。それが行政に対して思うことです。もう1点、先ほどの次世代のモビリティということです。私あまり車に乗らないので分からなかったのですが、調べてみると、東京モーターショーでSMART MOBILITY CITYというサイトがあって、エキシビションがあったりするのです。ちょっと、私のパソコンのこれを映していただけますか。これはSMART MOBILITY CITY 2013という東京モーターショーの中でやられているものです。試乗もできるようになっていて、テストライドなどもあるそうです。これが良いとは言いませんが、常に新しいことに取り組むということで、金沢は街中がすごく狭いので、21世紀美術館など、金沢の街中へ行くときに1人乗りや2人乗りのモビリティを用意する。それを自動車メーカーとタイアップして率先してやることが求められるのではないかと思います。まさに米沢さんのグループなどにぜひ取り組んでいただきたいと思いました。
 そういう形で、ストラスブールに倣うべきことは、一つは交通のヒエラルキーを変えたということと、もう一つは世界で一番先に取り組むということを常にやっているということです。そこは金沢にこそやっていただきたいと思います。具体的なことは分かりませんが。

(水野一郎) 非常に大事な提案だと思います。あと十数分なのですが、会場の方で何かご提案なり、ご質問、ご意見がありましたら、いかがでしょうか。

(大内) 先ほど町家を旅館として活用する場合のいろいろな難しさであるとか、実際、水野雅男先生がおっしゃったように、カフェにしたり、あるいはシェアハウスにしたり、いろいろなタイプのものが既に動いています。一部の日本、例えば京都でもそうですし、篠山などもそうだと思いますが、金沢の場合、ある意味ですごくレベルの高い町家というか、非常に素晴らしいお宅を1軒、ある種のホテルとして短期で上手にお貸しするようなものも可能です。
 京都なども今、東山の南禅寺の周辺に旧お金持ちの、ほとんど一般の方には公開していない邸宅がいっぱいあるのですが、あれを一番狙っているのは世界のセレブたちというか、今、世界の大金持ちが狙っています。一部は既に買われたり、あるいは共同で借りて、お互いに別宅として使うというようなことも注目されています。金沢は、例えばホテルや旅館という形でやるのもいいかもしれません。あるいは貸し別荘のような形でやるというとまた旅館業法とは違った形になると思うのですが、そういう形できれいに整備した上で、いろいろな方に別宅としてしばらくお使いいただく、あるいは今までの旅館やホテルにはない居心地をそこで体験していただくといったことは、早く手を着けないと危ないは思いますが、金沢には潜在的には相当あるわけです。
 ですから、ふらっと来るような外国人に、ソーシャルネットワーク等々を使って、提案することも考えてはどうでしょうか。例えば今、ウェブ上でシェアをするようなサイトがあって、カウチサーフィンというものもあるのですが、そういう形で気軽に町家を利用していただくのも必要だと思います。同時に、少しステータスの高い町家を上手にお使いいただくのも、多分そんなに難しくなくできるのではないかと思うので、僕らの方から提言して、その仕組みをつくっていくということを早くやればいいのではないかと思います。

(西本) あれは、金沢市が条例を新しく制定されて、例えば木造で歴史的建築物の建物をもっと生かしやすくするというか、町家のホテルやグレードの高いもの、例えば1泊数万円というものから、こういうものをやりたいのですという形でご提案されれば、恐らく・・・。設置したところは旅館業法を適用除外にするというのは新しく今回の特区の方針で決定されていますので、建築基準法の方とも合わせながら、金沢の建物を活用しやすくするというのを市で作ってくださるとすごくうれしいというか。ハードルがすごく高いかもしれないのですが、さまざまなソフトの知見も併せ持ちながら、ハードの部分で何か規制を強化しなくてはいけない部分をソフトで補うような形の審査体制も設けられて、建築基準法、旅館業法、消防法など、町家ホテルにされたいときの関連法をまとめて地域のルールで総合的に持つということが条例で求められてくるのではないかと思います。

(水野一郎) 1カ月ほど前に金沢で全国建築審査会の会長会議があって、そこで旅館業法などの緩和をしたとしたらどういうことが起こるかというシミュレーションがあったのです。歴史的建造物でまともにやっているところはいいのですが、その法を使って悪いことをする人がまたいっぱい出るらしいのです。畳1畳半ぐらいでずっと宿泊所を造ってしまうとか、便所はなくてもいいではないかとか、風呂はなくてもいいではないかとか言って、どんどんやってしまう人が出てきて、福祉施設か何かで少し緩めたら大変なことになったという事例が出ているようです。ですから、これはなかなか難しいので、慎重にいかなければいけないという面もあるようです。

(西本) そうですね。シェアハウスの問題も、国交省から通知が出て、脱法ハウスのような形で報道されたりしました。法の抜け道というか、法を甘くするとすごく問題が多くて、マスコミに騒がれてしまって、せっかくの良い事例などもつぶされてしまう可能性があります。ですから、そうなってしまわないまちづくりのルールや組織などが、先ほど先生がおっしゃったように、批判がぼんときて、つぶされてしまって、もう1個もできないという現状を何とかこの町で応援しようという体制をつくってほしいと思います。そういった変なものが来ないようにする体制を積み上げていくような何らかの措置やプラットフォームのようなものを町でつくれればと思います。良い事例がもったいないので。

(水野一郎) そこは市や国に制度をつくってくださいというのでは足りないと思います。要するに、国や公共の立場として、全て一律に公平に公正に考えるという論理しかありませんから、誰が脱法なのかということを前提にしていると、どうしてもこれはできませんというネガティブな話にしかならないのです。明治以降の日本の制度で非常にまずかったと思うのは、例えば土地もそうですし、財産もそうですが、「公」と「私」の二つに分けてしまったことです。私たちがまちづくりなどのいろいろなことを考えるときには、「公」なのかもしれないけれども、本当に全部の人が利益を受けるわけではない、あるいはプライベートといっても完全にプライベートではない、実はその中間があったのです。日本の古い町では、例えば入会地のような考え方があって、例えば町の街区の真ん中にみんなが共有して使う土地などの空間があったわけです。しかし、これは誰のものかは分からない、要するにみんなで共有している部分です。あるいは今でも山などには入会権というのがあって、山林をみんなで共有財産として使うという世界もあるのです。
 実は今はそこが欠落していることがまちづくりを非常にやりにくくしているのです。ですから、心ある団体が、ある意味でまずい使い方をする人たちを排除するということも含めて運営していくということです。そこに、「公」の側もある程度のことまでは任せる、「私」の側もそちらを信頼するという仕組みをつくらないといけない。イギリスやヨーロッパにおけるコモンやパブリックという意味はそういうことです。パブリックという意味は、本来は完全に「公」という意味ではありません。そういうところを育てていかない限り、今、私たちがやろうとしているまちづくりはなかなか前に行かないので、そこは少し注意しなければいけません。市や国にやってくださいと言うと、ネガティブな話が出た途端に全部ぽしゃってしまうということです。

(水野雅男) 町家に関連して、私が関わっている幾つかの団体があるのですが、新しく金沢市の町家担当のセクションが、その団体と市と協定を結んで、公的な事業を行うことについては活動助成をしましょうという制度が新年度から創設されるということを聞きました。そうやって、市が認めた市民団体については、活動を支援するという形で、どんどん進めていけばいいと思うのです。そして公的な事業をやると。やはり市民セクターでも見習うべきものはあると思うので、そういう形で、民間でも公共でもなくて、市民の中でそういう公的な事業をやるというところをもっと育てていくことが必要だと思います。それは今のシェア町家などに取り組んでいる一般社団法人などがそうです。

(フロアからの発言) ツーリズムの研究をしている玄道といいます。今日こちらへ参加する前に、金沢21世紀美術館のレストランで外を眺めながら、金沢の時間は少しスローテンポに動いているなと、交通のモード、コミュニティバス等々の動きを見ながら感じました。それで先ほど来のモビリティに関して、水野先生も交通のヒエラルキーとおっしゃいましたが、歩行者を大事にしている、あるいは自転車利用者を大事にしていることを端的に示すものとして、金沢でこそやっていただきたいというものが一つ提案としてあります。具体的には、現在よりも車のスピードを10キロ落とすということを条例なりで規制をすることです。金沢には新幹線という最先端の鉄道で早く来られるようになったけれども、他の文化都市と違って、さすが金沢だなと。例えば−10キロの交通規制で現在よりも落とすと、さらに徹底できるのではないでしょうか。イメージ戦略としても有効ではないかと考えます。

(水野一郎) 面白い提案、ありがとうございました。時間が来ましたので、これで終わりたいと思いますが、金沢の特徴である都市の町家や道路を含めて、伝統的な部分、歴史的な部分でストックがかなりあり、工芸をはじめ、文化的なストックもかなりあります。
 そういう中で、「壊死する地方都市は」という中央公論の特集がありましたが、いろいろな都市があっていいとだんだんなってきていると思います。画一的で均一的な都市をつくろう、町をつくろう、国土をつくろうということではなくて、百花繚乱(ひゃっかりょうらん)の国土をつくろうとしています。そのときに、今、特区という形でしか差別化ができないということは非常に寂しいことです。けれども、特区を始まりとして、それぞれの都市が自由に、自立的に物事を決めていくことができればと思っています。
 それを支えるのは、先ほどから出ていますように、市民の力であろうかと思っています。市民の力がそれをバックアップしない限り、そういうものは通るはずがありませんので、そういう意味では、内発的な力が必要かと思います。だけれども、大内先生がおっしゃるとおり、何か決める段階ではオープンにいって、世界中からの知恵を集める、世界中からのエネルギーを集めるということも一方では必要です。それも金沢の市民の力の一つではないかと思います。明日の総括の段階で、もう一回、今日の議論をまとめてみたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

 

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