第6回金沢創造都市会議

金沢創造都市会議2011 >基調スピーチ

ゲスト講演

■テーマ 総合テーマ「都市の再創造」

「日本の創造は、都市の再創造から」








近藤 誠一文化庁長官

 昨年の夏に文化庁長官に就任いたしました近藤誠一でございます。昨年までは40年近く外務省に席を置いており、上り坂の日本と、バブル崩壊後、停滞気味の日本を、内外から見てきました。本日お話することは、文化庁長官としての責務にも、今日のテーマ「都市の再創造」にも合致するものと考えます。40年間の経験に基づく考えをご披露いたします。
この国、日本を今後どうしたらいいのか。私なりの結論は、文化・芸術・創造産業を中核として、東京中心ではない、地方を中心とした都市が輝きを増し、自信を取り戻して行くことが重要です。そしてその経済効果を活用していく時代なのです。

 金沢は、都市が自ら、歴史・伝統・文化の独自性を基に、新しい経済を創り出す最先端に位置していると考えます。これまで金沢をリードしてきた方々に敬意を示すとともに、今後も日本のリーダーとして、金沢が創造都市構想をさらに発展させていくことを期待しております。
少し角度を変え、グローバルな視点からお話します。何を語るにも3.11を忘れることはできません。何がいけなかったのだろうか。今後、何をしたらいいのか。といったことを考えましたところ、私が自然、神から受け取ったメッセージは「人間は少し思い上がっているのではないか」「思い込みに陥っているのではないか」というものです。
同様のメッセージがこれまでもありました。ひとつはバベルの塔であります。人間は高い塔を作ることによって、天(神)に達することができると考えましたが、神の怒りにふれ、異なる民族が作られ、異なる言語を話すこととされ、互いに意思の疎通ができなくなったという話です。これは人間の思い上がりに対する教訓の話です。また、中国の荘子による渾沌の話、東福寺(京都)の三門のひとつ空門の話などに代表されるのは、人間の思い込みに対する教訓です。
人間の「思い上がり」、「思い込み」に対する警告はこれまでもありましたが、17世紀以降の近代化により、すぐれた科学技術を手にした人間はこれを無視してきた傾向にあると思います。今回の3.11は、この「思い上がり」「思い込み」に対する警告にほかなりません。
では、この「思い上がり」「思い込み」から自由になるにはどうしたらよいのか。ヒントが文化・芸術にあると考えます。

 ひとつには、文化・芸術により、人々が持つ、感動、祈り、感謝の気持ちを表現し、その表現したものに共感を持つことできます。そして、連帯感を持つことができることが挙げられます。ラスコーの壁画で、クロマニョン人が収穫に対する祈りや感謝の気持ちを表現し、連帯感を共有したことを思い出します。
次に、文化・芸術は、個人個人に生きる力と幸福を与えるということです。生物学の大家、村上和雄先生によると、人間は普段、遺伝子の2%しか使っていないということです。感動すると98%が目を覚ますそうです。いい感動が得られると、98%の遺伝子がポジティブな動きをし、人間を元気にし、病気の治癒力までもが働くようです。
もうひとつは、社会的な役割と表現しますが、コミュニケーションをし、連帯をしていく力を与えてくれるということです。ロンドンに、リア王の劇を見にいったとき、リア王にふんしたのは、アフリカ系の俳優で私の印象とは違っていましたが、時間が経つに連れ、どんどんとその演技に引き込まれていきました。当時のブレア英首相の政策として、アフリカの人々をイギリスへ入れ、文化を統合するというものがありました。 それから、経済的な効果があります。今、企業などが求めるイノベーション能力とは、知識の積み上げではなく、ひらめきが重要ですが、それは、文化・芸術が与えてくれるものと言えます。

 ここで私が、最も強調したいのは、芸術というものは、既存の枠組みにこだわっていてはいいものはできません。固定観念、思い込みの殻を打ち破ることが芸術の力だということです。今この力が求められているのです。
戦後日本はめざましい経済成長をとげるなか、豊かさを手に入れました。その後は、心の豊かさを求めシフトすべきでしたが、現在でも効率性、合理性、短期成果主義一辺倒になるところが問題であることに気付かねばなりません。そしてそれから逃れることを考えなければなりません。また、東京一極集中主義からも脱却し、地方に文化創造都市をつくることが必要です。
ユネスコの大使をしているとき、ユネスコのネットワークの存在を知り、金沢で10年以上も創造都市会議が行われていることを知って、自ら納得した次第です。
なぜ、都市の時代なのか。国というのは、中途半端で時代の変化に対応しきれていない。アイデンティティは都市に求められているのです。都市は歴史、伝統、自然との一体感を保ちつつ文化芸術分野で力を発揮する適当な単位なのです。
世界においては、文化芸術創造都市発展へ向けた動きがあります。欧州文化首都を欧州各国持ち回りとして、活性化を図る試みのほか、ユネスコ創造都市ネットワーク、ASEAN文化首都などがあります。日本でも文化庁長官表彰受賞都市、モデル事業採択都市などを制定してますが、金沢はいずれにも初めに該当しています。自信を持っていただきたいと思います。
文化芸術創造都市として成功している都市は、世界に多々あります。フランスのナント市、スコットランドのグラスゴー市、スペインのビルバオ市、ドイツのドルトムント市などです。特にドルトムント市は、もともと鉄鋼と石炭の町で衰退しておりましたが、メディア芸術(現代アート)で町の再生をいたしました。 成功するのに必要なことは何なのでしょうか。私なりにまとめてみます。ひとつには、リーダーの先進性です。市長のリーダーシップは必要不可欠です。金沢市は21世紀美術館を生むなど、合格点が与えられると思います。
 
 2つ目は、市民の理解と協力です。同友会などの民間レベルのサポートが必要となります。また、才能ある専門的な推進者も必要です。21世紀美術館の成功も前館長、現館長の才能の高さがあってのことと考えます。
それから、地域の特性です。いうまでもなく、そこに根ざす伝統を生かすことがユニークな魅力を発信することにつながると思います。
私は現代アートがよく分かりませんでしたが、きょう、21世紀美術館を見て現代芸術は、芸術自身の固定観念を破るということだと気付きました。私には芸術は美しいもの、巨匠がつくるものという固定観念があったようです。それが間違いであることを知りました。素材は何でもよいのです。(ちっぽけなものでもよい)偶然性も芸術なのです。(必ずしも人がつくる必要はない)自分が知らなかったものを受けいれるという寛容性も必要なのです。
近代化の行き詰まりを解決するのは、発想の転換が必要です。それを可能にしてくれるのが、文化・芸術であり、その単位が都市なのです。独自の伝統を生かした創造都市がネットワークでつながることにより、日本の再生が可能になるのです。
金沢はこの分野において先行しています。日本を広く正確に理解してもらうためにも、国際交流が必要です。2015年には、金沢が創造都市ネットワークのホストをする案があります。金沢のみならず、日本のために活発な国際交流を期待します(拍手)。


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