第9回金沢学会

金沢学会2018 >第3セッション

セッション3

 

■第3セッション「夜を熟成させる」
近年「ナイト・カルチャー」は、都市の活性化の方法として期待されている。また 地域の芸術や芸能と市民を結ぶ発表や活動の場を生み出す可能性もある。また訪日外国人の増加に伴い、金沢の夜を楽しみたいという要望も高まっており、「ナイト・カルチャー」に対する注目が集まりつつある。こうした背景を踏まえ、本セッションにお いては金沢の夜の文化をどのように熟成させていくのかを展望する。

●コーディネーター
佐々木 雅幸 氏(同志社大学教授/文化庁地域文化創生本部主任研究官)
●パネリスト   
太下  義之 氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング芸術・文化政策センター長)
松岡 恭子 氏(建築家、スピングラス・アーキテクツ代表取締役)



















都市の夜の熟成に求められるもの

(佐々木) 私は2日前から金沢市文化ホールであるシンポジウムの総括、それから昨日は東アジア文化都市のクロージング前の国際シンポジウムの総括をして、かなり真面目に働いてきたので、今日のこの場は少し遊ぶ感じにしたいと思います。
 「夜を熟成させる」というテーマですが、昼間に夜の話をすると面白くないですね。昼間は真面目に働いて、夜は思い切って遊ぶという感じのメリハリが何となくあります。私は20年前、イタリアのボローニャに1年いたのですが、そのスイッチの切り替えがイタリア人はとても上手です。家内には「留学前と後で、あなたの人生観は変わっちゃったんじゃないの」と言われております。
 今までの二つのセッションは非常に好対照で、大変生真面目に金沢の都市計画を論じたものと、思い切り遊んでしまってデジタルの遊びとアナログな遊びをぶつけ合うというものでした。宮田さんはよくぞコーディネートしたと思いました。
 都市について幾つか面白い話が出ました。大内さんはやはり体系的に金沢の都市計画、行政の対応もお話しになり、竹村さんは実践的な話があって、やはり成長と成熟と熟成という三つの段階というのはもうそのとおりだと思うのです。「成熟都市」という概念は、京都が割と早めに使っていました。でも、私は成熟した先がちょっと読めないときに「成熟」を使いたくないので、「クリエーティブシティ」にしました。これが幸い、20年ぐらい前から21世紀のトレンドをつかむ言葉になってきました。
 しかも、その頃はまだAIという議論はありませんでした。しかし、今はAIを避けて通れなくなりました。私は授業で学生たちに対し、「AIによってなくなる仕事と残る仕事をちゃんと分かってるのか」と問題提起をするのです。AIで失業者が増えてからバタバタするのは駄目で、AIの中で必ず新しく生まれる仕事があります。AIを使いこなして、使い回して、それよりもっと創造的な仕事あるいは働き方をすることが本当の働き方改革なのです。
 そのためにどういう教師が必要なのかというと、実は野村総研の中を見ても、AIで残る仕事に教師が入っているのです。これはAIにはできない仕事です。なぜなら、先ほど形容詞の話がありましたが、人間はみんな違うから形容詞がたくさんあるのであって、多分AIは混乱してしまいます。それで、教師の仕事は残るのです。だから、教育は21世紀的な産業としてもう一度注目を浴びるし、教育都市も生き残ると思うのです。
 ステレオタイプなものを押し付ける意味の教育は20世紀型で、個々人の創造性をうんと引き出すのが新しい教育です。そこに宮田さんは目を付けたので、「VIVITA」が生まれました。これは、ある意味でテキストは要らないのです。自由に空間を置いて、アナログの機械であれ、デジタルの機械であれ、勝手に触らせます。そういう自由な場がとても大事で、ある意味でこれは遊びなのです。だから、生真面目さと遊びの両方を上手に生み出すような場が都市の中にたくさんあります。
 バルセロナの話は、私も非常に関心があります。実はヨーロッパの都市の中で、ボローニャとバルセロナはどちらもBで始まるから好きなのですが、バルセロナはユネスコのクリエーティブシティネットワークに入っていますし、ボローニャも入っています。私は、テクノロジー優先のスマートシティはバルセロナに合わないと思っているのです。今日の結論はそうだったですね。From smart city to able cityですよね。これは言い換えると、クリエーティブシティです。人間の創造性を大事にする都市ということです。
 それを最初に言ったのはジェイン・ジェイコブズです。ジェイコブズは「都市の中に多様性がある方がいい」と言いました。つまり、ダイバーシティだったのです。ジェイコブズが最も批判したのは、実はスーパーブロックなのです。今日の話でやや引っ掛かるとしたら、スーパーブロックは大ブロック主義ではないと言い切ってないことです。そこにさまざまな多様性があるということです。つまり、例えばパリのファサードです。パレ・ロワイヤル(グラン・パレ)を細かくしていって、そこにいろいろなお店をたくさん広げていくと、すごい繁華街になりました。だから、パスがたくさんあった方がいいわけです。もちろんそこには車は入れません。そういうものがクリエーティブブロックといってもいいのではないか、それがfrom smart city to able cityということかと思いました。
 やはり第1セッションは非常に生真面目で、水野さんの好みの生真面目さがあった。第2セッションで面白いのは、やはりデジタルとアナログの両極端から思い切り遊んだことです。未来論はやはり遊びがないとできないのだと思うのです。どのように都市を遊ぶか、何を遊ぶか、誰が遊ぶかということを考えてみたときに、実は金沢の職人自体は遊んでいるのです。その遊んだ記録が残っています。だから、御細工所はもちろん大事なのだけど、生真面目に決まった仕事をこつこつやっているだけではあんなにいいものはできません。遊びの仕事がたくさんあって、その余裕が殿様の遊びであったり、旦那衆の遊びであったりしたのです。その中で思いがけないような前衛的な仕事が出てきたり、あるいは非常にとがった感性が身に付いたりしたのだということをずっと聞きながら思っていました。実は福光さんから宣言文の原案を考えるように言われたので、どうしようかと思いながらいました。
 ここから先はお二人に、「夜を熟成させる」というのは、言い換えると夜をどう遊ぶかという話ですよね。何の前提条件もなくお二人に丸投げしますので、それぞれ思っていることをお話しください。
(太下) まずプレゼンテーションをするのは太下です。私の本業は文化政策の研究者で、別に夜の専門家でもないのですが、あくまで文化政策の研究者の観点から、ナイトカルチャーを振興していくにはどうしたらいいのかを考えて、スライドを作ってみました。恐らく夜の文化に関しては、円卓にお座りの皆さんの方がよほど詳しく、歴戦の勇士ではないかと思っています。

 「夜を熟成させる金沢ナイトカルチャーの熟成に向けて」ということで、実はそもそもこのセッションのお題になったことからもご理解いただけるとおり、実は近年、日本でナイトカルチャーを巡るいろいろな動向が起こっています。そこをちょっとファクトとして整理して紹介したいと思います。

 実は、最初の発端として起こったのはクラブです。深夜まで営業してお酒を提供したり、そこでダンスをできるような場所としてのクラブがさまざまあるわけです。この営業に対して、規制が起こりました。その背景として、ある暴力沙汰による死亡事件が大阪のクラブで発生しました。そのことによって警察も規制を強めざるを得なかったという背景があります。過剰規制問題に端を発した『踊ってはいけない国、日本』という本も出ました。

 そういう中で、今度は別のルートからナイトカルチャーの動きが出てきました。これは新経済連盟といって、楽天の三木谷浩史さんなどが中心になってつくった通称・第二経団連と呼ばれる組織です。ここが2015年に「観光立国2020」という政策提言を出しました。この中にいろいろなアイデアが盛り込まれているのですが、その中のプロジェクト29ということで、ナイトライフ観光の受け皿の整備が提案されています。この中で課題として先ほどのナイトクラブへの過剰規制を受けて、国内のナイトクラブの営業時間が限定されていること、世界各国でグローバルスタンダードとなっているナイトクラブやフェスティバルの欠落があるということです。その具体的な対策として、風営法の改正や有名な音楽フェスの誘致がここでは提案されています。

 こうした動きもあって、結果としてクラブに関する規制が変わります。実はクラブに関する規制は法律でいうと風営法なのですが、風営法で規制されているものを改正することによって、何とかクラブが営業できる形の見直しが行われました。これが2016年のことです。
 さらに、こういった動きと並行して、議連ができたのです。24 hour Japan 推進協議会です。これは官民でつくられたものですが、ナイトタイムエコノミー議連が既に自民党にあり、それと民間が共同して、24時間ということを掲げた推進協議会ができました。これが2017年のことです。官民協働でやっていこうという動きになってきたわけです。

 実は世界的にも既にいろいろな動きがあります。その一つの大きなポイントが、「夜の市長」という存在です。これは毎日新聞の今年の記事ですが、オランダのアムステルダムで夜の市長が選出されたということが報道されています。選ばれた方は黒人の方ですけれども、先代のナイトメイヤー(夜の市長)が2〜3年前に来日しています。オランダの政府首脳が来たときに、実はアムステルダムの夜の市長も同行していて、東京などで講演もし、情報提供もあって、夜の時間、ナイトカルチャーのマネジメントが非常に重要ではないかという議論が日本でも起こってきたのです。
 毎日新聞では2018年2月に連載もしていました。ナイトメイヤーとは一体何をしているのかというと、単なる名誉職ではなくて、夜と昼の行政の橋渡しです。そして、後でまた触れますが、実際ナイトカルチャーを推進していこうとすると、プラスの側面もありますが、マイナスの側面も出てきます。その一つが騒音や暴力といわれるものですが、そういったものをいかに減らすかという夜のソフト面のまちづくりをする役割を担っているわけです。

 実はナイトメイヤーの動きは世界的にも結構進んでいるところがあり、Global Cities After Darkといって、要するに夜の国際会議のようなものが開催されています。これは2017年から始まったようで、今年は先月11月にシドニーで開催されたようです。世界的にもこういう動きが起こってきているということです。今年のケースとしては、世界各国から夜の専門家が200名以上集まったということです。その中で、夜のナイトカルチャーを推進することに伴って、創造産業をどういうふうに振興していくのか、文化をどういうふうに活性化させていくのか、交通や移動の問題、公衆衛生や安全、または夜の居場所づくり、プレースメーキングのようなもの、または関連法規と規制緩和といった問題が、この国際会議の中で議論されたと報告されています。

 こういう動きがある中で、実は徐々に日本の各自治体も、夜のナイトタイムエコノミーまたはナイトカルチャーといわれるものに取り組み始めています。その幾つかをご紹介したいのですが、まずは英国の事例から紹介します。
 パープルフラッグという制度があります。これはイギリスでの制度で、要するに夜の都市、ナイトカルチャーのマネジメントがしっかりできている都市を認証する制度です。どこが認定しているのかというと、左側にATCMと書いてあります。これは略称で、Association of Town and City Managementです。要するに、英国の3セク、まちづくり公社のようなところです。本来なら、日本でいう住都公団や都市再生機構のようなものになるわけで、普通の意味のまちづくりをしている組織です。今、こういったまちづくりの組織が夜のマネジメントにすごく関心を向けていて、パープルフラッグ制度を設定しています。既に英国中で70都市ぐらいが認定を受けているようです。

 また、個別の都市では、ロンドン市が政策として24 Hour Londonを打ち出しています。これは一つのビジョンなのですが、昼間だけでなく夜をもっと活性化させていくための施策です。これは現実に経済的な意味もあるということがウェブサイトで紹介されています。実際、夜の経済は、2016年現在で236億ポンドの経済価値があります。これが振興していけば2029年には283億ポンドまでに成長するというふうに、一種の成長セクターであると位置付けられているのです。そして、既に多くの雇用をしているけれども、さらに雇用効果もあるということがうたわれているわけです。こうした背景で、ロンドンは24 Hour Londonを進めています。現に、象徴的な動きとして2016年から、ロンドンの地下鉄は24時間営業をしています。これが非常に重要なポイントかもしれません。

 ニューヨークは、先ほど紹介した夜の市長を設けています。夜の市長だけだとあえてここで取り上げなかったのですが、「Time Out Tokyo」の記事で、市役所内にナイトライフ課というものが新設されたというのが非常に面白いと思って注目しました。この人たちの勤務時間は一体何時から何時までなのだろうと微妙に気になったのですが、ナイトライフ課と夜の市長が任命されたということで、ニューヨークも非常にナイトカルチャー、ナイトタイムエコノミーに力を入れています。

 シドニーもナイトカルチャー、ナイトタイムエコノミーを振興しようとしているのですが、一つ原則を設けていて、変化の原則というらしいのです。要するに、既存の娯楽施設の近くに新しい住宅が整備された場合、会場間の騒音という問題が当然出てくるのですが、それは必要最低限やりましょうということです。新しい娯楽施設を整備する場合には、既存の住宅が全く影響を受けないようにするのです。要するに、既存の住宅が普通あると、単に音を出す施設、単なる迷惑施設という一方的な位置付けになってしまうのですが、それはお互いイーブンの関係で、どちらが後に変化したかということを見極めてちゃんと整備していこうというふうに、割と迷惑施設になりがちな夜の施設をイーブンに位置付けた原則と見られています。

 ちょっと変わった動きを幾つか紹介したいと思います。昨日、東アジア文化都市のクロージングで、欧州文化首都を経験したスペイン・バスク地方のサン・セバスチャンの方にゲストでお越しいただきました。その他、例えばビルバオなどもそうですが、バスク地方で非常に有名な一種の食文化があって、それがいわゆるはしご酒です。日本ではしご酒というと何となくネガティブで、本当に酒好きの人がやる、どうしようもない習慣というイメージがなきにしもあらずですが、実はバスクにおけるはしご酒は、現地語でポテオとかチキテオというのですが、非常に普通の行動としてみんなやっているのです。バルでたくさんのグラスワインを頼んで、ピンチョスと呼ばれる串刺しのような、小さなプレートのつまみを食べて、長居するのではなくて、さっと行ってまた次のバルで同じようなことをします。これを3〜4軒続けるという飲食のスタイルになります。
 単純にそれだけ聞くと、やはりバスク人は単に酒が好きなのではないかと思われるかもしれませんが、一説によると、スペインは第二次世界大戦中から戦後まで先進国なので、非常に特異な現代史を持っていて、ご案内のとおり、フランコ将軍が軍事独裁体制をずっと敷いていました。彼が死んだのは1975年ですが、1980年代になるまで結局民主化できませんでした。特にバスクや、先ほどご紹介もあったバルセロナを中心とするカタルニアはそれぞれ独自の言語を持っているのですが、そういう独自言語が禁止されたり、集会が禁止されたり、さまざまな規制を受けたわけです。
 そういうときに、大っぴらに100〜200人単位で集まれませんが、仮にある1軒のバルで10人集まって、「今度こういうことを考えて、フランコに対抗して奇襲していこうぜ」みたいな話をして、その10人が散って違うバルに行って、そのバルからまた3軒目に行くと、あっという間に100人単位の人にメッセージを伝えることができます。これは別に私が想像で言っているわけではなくて、社会学の論考で、バルにおけるはしご酒はそういう政治的行為として使われていたという話が出てきます。そういった背景もあって、はしご酒の文化はバスクに非常に根付いているのです。
 アジアでももちろんナイトタイムエコノミー、ナイトカルチャーがあります。台北では饒河街夜市という、本当に夜通しでやっているような屋台街があります。本当に有名な観光街といいますか、観光施設にもなっているものがあるわけです。

 それから日本ですが、東京都も夜に非常に注目していて、東京ナイトライフということで夜の東京をPRしようとしています。ウェブサイトも英語対応になっていて、海外の人が夜の東京を楽しむときの検索の手伝いをしています。

 それに伴って、六本木アートナイトというイベントをやっています。元々、毎年秋にやっていたのですが、今は5月に行われています。土曜の晩から日曜にかけて行われます。たまたま六本木は、比較的大きな美術館が三つあって、森ビル美術館、国立新美術館、サントリー美術館があるのですが、この三つの施設を中心にまち歩きを一晩中楽しめるようなアートイベントを行っています。

 渋谷区では、先ほどの夜の市長に近いような制度として、ナイトアンバサダーという制度を導入しています。これは行政的な役割があるというよりは、一つ広告塔のような、イメージ発信のような位置付けのようです。アーティストのZeebraさんやALISA UENOさんといった方がナイトアンバサダーに任命されています。

 やはり渋谷は元々夜遊びの街というイメージもあって注目されています。これは日本経済新聞の今年7月の記事です。「動き出す夜遊び経済」という感じで記事にもなったのですが、ご案内のとおり、渋谷については11月のハロウィーンのときにニュースをご覧になった方もいると思いますが、車をひっくり返したり、悪ノリしたりする若者が出てきて、ちょっと安全性に問題があるのではないかという課題が提示されています。

 今年は金沢で東アジア文化都市が行われ、来年は東京の豊島区ですけれども、豊島区もナイトカルチャーに非常に力を入れようとしています。「アフター・ザ・シアター」と豊島区では言っていて、私もこの委員なのですが、豊島区は現在、東京都の芸術劇場が駅前にあるほか、民間の劇場も幾つかあります。さらに、豊島区庁舎が移転したのですが、その跡地の再開発が進んでおり、それがまさに東アジア文化都市がある来年のクロージングの頃にオープンします。その再開発に伴って、八つの劇場が同時にできるという結構画期的な状態になるのです。完全に劇場タウンのような形になります。単に劇場を見て「じゃあ帰ります」という感じになるのではなく、劇場を見た後、余韻に浸りながら飲んだり遊んだり、しかも安全にということを目指していかなければならないということで、「アフター・ザ・シアター」という形でナイトカルチャー・ナイトタイムエコノミー振興の取り組みを始めています。
 また、札幌市もカルチャーナイトということで、公共施設や民間施設を夜間開放して、それを巡って楽しむような、一種のイベントのような形で、今年は7月20日に行ったようです。

 同じく北海道では、函館市もカルチャーナイトということで同様の取り組みを、9月下旬の金曜日に行ったようです。

 あと、政令市では千葉市がナイトタイムエコノミーの実証実験ということで、「宴タメ千葉2018」を今年8月に行ったようです。前売券3300円、当日券3500円を買うと、いろいろなプログラムを楽しむことができるという仕掛けをつくったらしいのですが、これはニュースにもなっていまして、販売不振で、チケットが261枚しか売れなかったそうです。これは惨敗ですよね。逆に、金沢市の方で今後いろんなイベントをしていくのであれば、失敗事例としてちゃんと研究した方がいいかもしれない事例になります。

 こういう実証実験は結構いろいろなところでしています。横浜市の桜木町に野毛という飲食店が集積したエリアがあります。ここで「野毛 横浜おもてなしナイト」という、観光客を対象にしたナイトタイムエコノミーの実証実験も行われています。これは特に失敗という報告はないようです。

 割と気合が入っているのが大阪です。これは大阪府ですが、ナイトカルチャーのコンテンツづくりのために助成金を出す事業をしています。大阪府ナイトカルチャー発掘・創出事業という名目で募集して、サイトを見ると、エイベックスさんがやっていたり、近鉄百貨店さんがやっていたり、夜のイベントをこういう形で創出することを試みています。

 その他、「光の饗宴」です。割とヨーロッパの街では夜に光で演出することはすごくよくあるのですが、日本ではあまりありません。イベントとしてはあります。イルミネーションの通りを作るようなことはありますが、割と大々的に無料でやるのは、大阪が一番進んでいるかもしれません。

 さらに、大阪観光局というのは大阪府と大阪市で共同でつくっているのですが、ここは夜を楽しめる店の認証をしています。安全に楽しめるというお墨付きを与える制度も始めています。

 奈良市は東アジア文化都市を一昨年に体験した都市ですが、ここも奈良の夜を楽しもうということで、ちょっと地味ですが、「ならまちナイトカルチャー」という取り組みをしています。

 国内はこれが最後ですが、沖縄で夜の市長を選んだという記事もありましたので、ご紹介しておきます。

 国内のいろいろな都市や海外の都市のご紹介をしたのですが、実は事前に浅田さんから、「あまり大きな政令指定都市や海外の大都市の報告をされても、金沢はもうちょっと規模感があるから、そういった規模感に合うような事例を紹介してくれないか」というリクエストを頂きました。たまたま先週、フランスのニースに行く機会があったので、ニースはどうなのだろうかというところを見てきました。別に夜の経済を取材に行ったわけではないので、見た印象ベースになりますが、一つには今ご覧いただいているとおり、界隈性のデザインのようなものはちょっとうまいなと思ったのです。
 これは夜8時ごろです。観光客向けの店が結構多いのですが、観光客の物販がまだ開いていて、同時に飲食店が開店し始めるぐらいのタイミングです。本当に観光客だけでなく、市民も子ども連れでまちをぶらぶらしています。

 こういう狭い路地の使い方が非常にうまいなと思います。実際、自分もうろうろして思ったのですが、観光客、そして住民の方もそうですけれども、夜のまちに誘い出すために必要なものはいろいろあると思うのですが、非常に重要なのが、自分以外の人の存在だと思うのです。やはり寂しい所に誰も行きたくないので、ちょっと逆説的な、鶏が先か卵が先かという話にもなるのですが、やはりみんながいる所に人は行きたがります。特に夜です。界隈性やにぎわい性のデザインをどういうふうにやっていくのか。これはハード・ソフト両面あると思いますが、非常に重要だと思いました。
 このような狭い路地もうまく使って、人がどんどん迷路のような旧市街を回遊する仕組みといいますか、誰が企んだわけでもないと思うのですが、そういうふうになっています。

 それと、ニースでちょっと面白いと思ったのが、トラムが走っているのですが、終電がとても遅いのです。夜中にずっと走っているなと思って調べてみたら、夜中の1時35分が終電でした。相当夜遊びしても、安く公共交通で帰ることができます。やはり足は非常に重要だと思いました。別にトラムではなくてバスでもいいのでしょうが、公共交通が夜走っているのは何となく安心感も与えます。やはりこういうものも非常に考えていかなければならないと思います。

 たまたまこの画像にも映っているのですが、先ほど紹介した界隈性のある旧市街にほど近い所の広場で、割と人がたまりやすい場所になっているのですが、非常に特徴的なオブジェがあり、これが夜、とてもきれいに光るのです。こういったものも文化都市としては考えてもいいのかなと思います。非常にフォトジェニックな、要するにみんながインスタグラムに上げたくなるようなアートです。しかも夜に映えます。調べたら、これはスペイン人のジャウメ・プレンサという有名作家のアート作品でした。これは昼間に見ると全然つまらないのですが、夜になると非常にきれいに見えます。
 たまたま私が行ったときには、背景のビルが分かると思いますが、いわゆるプロジェクションをやっていて、これ自体を楽しむために人が非常にたくさん出てきていました。
界隈性のデザインや、非常に遅くまで運行している公共交通や、フォトジェニックなアートのような要素は、金沢でも参考になると思って、ニースを見てきました。
 実際、ナイトカルチャーを実現しようとすると、幾つか課題があります。課題は2種類あると思います。一つは、先ナイトカルチャーを振興していくが故に出てきてしまう課題です。容易に想像されるのが、アルコールの問題、ドラッグの問題、アルコールなどに伴う反社会的行為、犯罪などです。あと、風俗業が出てきてしまったり、ごみの増加などです。これは当然、警察または自衛的な組織等の対応で対処していくことが必要になると思います。特に犯罪は、割と統計でも出ているようですが、観光客が増えるのに比例して増えるのです。

 ちょっと面白いのは、これはアメリカのデータですが、増えるのは主に置き引きやすりなどの軽犯罪なのです。重犯罪はむしろ微減する傾向にあるようです。やはり人が多いので、そうそうおかしなことはできないということもあるようです。

 ごみは絶対に増えます。税金なりで負担する、または何らかの観光税的なものを新設する等の対処は必要かもしれません。
 一方で、ナイトカルチャーをより推進していくためにクリアしなければいけない課題もあるように思いました。その一つはナイトカルチャーのコンテンツです。「さあ明日から金沢市はナイトカルチャーです」と言っても、急に人は夜に出歩かないと思います。何か起爆剤となるようなコンテンツが必要だと思います。最初はイベント的なものかもしれませんし、もうちょっと恒常的な仕掛けも必要かもしれません。あとは交通です。必ずしも爆発的な需要があるとは思いませんが、夜間、公共交通が動いていることの安心感や、いわゆるアベイラビリティというのでしょうか、行動の選択肢の幅を広げることも非常に重要かと思います。あとは、ナイトカルチャーだけではないのですが、多言語対応が大きな課題になってくると思います。

 特にインバウンドを考えた場合、どうも日本の夜はつまらないというのが外国人観光者のイメージらしいのです。これはOECDのデータを基に観光庁が作った資料ですが、ご覧いただいて分かるとおり、その国への外国人観光客の消費支出の割合のうち、娯楽サービスの部分は日本が断トツに低いのです。日本に来た外国人の方に聞くと、「夜、食事して居酒屋に行った後、やることがない」という話をよく聞きます。そこのプラスの部分で、何か文化的な体験などがあると、もっともっとお金は落ちるのではないかというところはあると思います。あとはやはり夜間の足です。これは大都市の鉄道路線だけの事例ですが、実はほとんどの大都市が少なくとも週末は24時間化を実現しています。もちろん鉄道路線を24時間化するためには、メンテナンスのためのバックアップが必要なので、日本の場合は簡単にはいかないのですが、そうであればバスで代替するなどいろいろな方法もあると思います。金沢の場合、市内に鉄道が元々ありませんから、バスをどうするのかというのが目先のソリューションになってくると思います。こういったことも考えながら、ナイトカルチャーの振興を考えていくべきだと思います。イントロとして概論的なお話をしました。

(佐々木) ちょうどバブルのときに「24時間都市」という言葉がはやったのですが、あのときの24時間は何だったと思いますか。「24時間戦えますか」という、つまりがんがんエコノミックアニマルをやりますかという話だったのです。でも、今は全く違う意味で「24時間都市」です。ニューヨークの地下鉄が24時間動いているのは、金融マーケットが動いているからです。それも今は全く違ってきている。それは21世紀という時代の一つの特徴かもしれません。
 今日は松岡さんをお招きしました。博多をベースに活躍されている建築家です。金沢の印象も含めて、普段のお仕事、それから先ほどサン・セバスチャンの話も出ましたが、海外の都市も紹介しながらお話しいただけますか。

(松岡) 私は建築家なので、ものを作る仕事をしているのですが、立場が三つあります。まずデザインをしているのは、私の設計事務所です。それから、二つ目はNPO法人の理事長です。三つ目は、2年前に父が創業した不動産会社を継いで、その会社の社長もしています。その三つでどんなことをやっているかということを少しお話しして、何かのご参考になればとても幸いです。

 夜を熟成させるということを私なりに読み替えて、これからものが売れない時代とよくいわれていて、事の時代だといわれるわけです。やはり熟成させるというのは、ひもづける意味、背景といったものの数が増えたり、奥行きが広がったりすることがとても大事なのではないかと思っています。それから、熟成させるというのは、単なる浅い活動ではなくて、意味が深くなれば多様な人が集まってくるわけです。従って、そのプロジェクトの意味や行き先などを少し大きな視点で捉えないと、価値の共有がしにくいという思いもあります。

 私が最近プロジェクトを見直したときに、こういうダイヤグラムを使います。左から背景、着想、真ん中が課題、プロセス、最終成果物と、左から右に事が進んでいると思ってください。背景はプロジェクトを取り巻く歴史や文化、着想はなぜこのプロジェクトが始まったのか、例えば企業の何周年とか、助成金が下りたとかです。課題は、そもそも何のためにやるのか。そしてプロセスは、誰がどれぐらいの時間で、どんなチームでやるのか。最終成果物は、私の場合は建築だけでなく、土木やプロダクトなどもやっているので、それぞれいろいろあります。

 一方、私たちが何かをするときに、アクションとして四つあるような気がしています。映画に置き換えると非常に分かりやすいのですが、一つ目はプロデューサーです。そして、コーディネート、調和させる人です。そしてディレクター、映画でいう監督です。そしてデザイン、これは狭い意味でのデザインです。例えば映画でいうとヘアデザインやコスチュームデザインなどです。本当は私はデザイナー、建築家なので、これを全部やってデザインの仕事と呼んでいるのですが、こういうふうに分解してみました。
 そのときに、先ほどの五つのプロセスと立場がこんなふうに絡んでくると思います。プロデュースの部分は始めから終わりまで、映画が配信された以降もかなり関わっていくことを考えると、非常に時間スパンが長い仕事になります。またディレクター、監督は作品の質に責任を取る人です。そしてプロセス、どんなメンバーがというのは、コーディネーターです。あとは狭義のデザインです。
 私のところにいろいろご相談いただく仕事は、この五つの丸がきれいにそろっているプロジェクトは一つもありません。何かが欠けていたり、何かがよく分からなかったり、着想だけあって、最終成果物だけあるという依頼も多いです。例えば「うちの会社は100周年になったので、本社を建て替えます」という場合、あとはグレーになっているところを読み解いて、そこに価値を与えてストーリーを与えていくのもプロデューサー的な仕事で、重要だと思っています。

 地方創生やまちづくりの交付金が下りて、取りあえず建物を建てることが最近多い例です。右側に小さくピンク色を書いていますが、道の駅ではないですが、「観光拠点みたいなものを造ってね」というものが多くて、課題はとても大きくて、高齢化や人口減少などがあるのだけど、その背景やプロセスが結構欠落しています。

 私が実行したプロジェクトを一つお見せしたいと思います。これは福岡のプロジェクトで、水上公園とSHIP'S GARDENというものです。二つの川に挟まれた三角の敷地です。このプロジェクトの背景としては、福岡市で最も古い街区公園は大正8年に完成しています。着想から始まっていて、福岡市が地下に埋まっている施設の更新でこの公園をやり直さなければならないのです。地上をガラガラポンして再整備します。でも、お金がないので官民協働で、プロセスにいきなり飛んでいます。最終成果物は公園と休養施設のようなものを造ることです。これは事業コンペだったのです。私は常々、福岡の水辺空間が貧困であると思っていました。

 福岡のまちをちょっとご紹介します。真ん中に川があります。那珂川といって、その東側が博多で、江戸時代は商人のまちでした。西側は武士のまち、福岡です。この水上公園という敷地は、那珂川に面しています。那珂川というのは江戸時代、この二つのエリアを隔てていて、人が自由に行き来できない川だったそうです。特に商人は福岡側に来られなくて、年に1回、お祭りのときだけ来られました。
クローズアップしたのは三角形の矢印を付けている所です。この道路の南側には昔、福岡県庁があり、都心なのに公園があったりする場所です。二つのエリアの端なので、恐らく過去にはあまり環境のいい所ではなかったはずです。エリアの端は、例えば物が捨てられたり、人が何か良くないことをしたりした場所になりがちだったはずです。

 中洲という繁華街をご存じでしょうか。写真の上の方にたくさん屋根が並んでいますが、これがかつての中洲の繁華街です。この三角形を海側(北側)に向かって見ている写真です。右側に那珂川があります。福岡はもちろん、古来、韓国や中国の大陸文化が入ってきて、日本と大陸文化の交流の玄関口だった所ですが、福岡は南側に発展して北側に背を向けてきたので、非常に海側のウオーターフロントが貧困です。
 このプロジェクトのプロセス、枠組みはこういうことになっていました。公園部分は公設民営、建物部分は民設民営で、民設民営の建物の土地代を福岡市に払う仕組みです。これは事業コンペでした。とても小さい公園なので、この中で許されている最大の建築面積の建物を建てると、公園面積が半分ぐらいになってしまいます。だから、休養施設の屋根の部分も公園のように使えるようにして、結果的に公園的な面積は減らないというのが私たちの提案でした。
1階と2階にはそれぞれレストランが入っています。かつては全く誰も行かない公園だったのですが、今は非常ににぎわいをもたらしています。この三角形のところが民間の建物です。

 上に行くと、地面から9mくらい上がるだけで、これは中洲の方を見ているのですが、非常に開放感があります。

 これが玄界灘の方を向いているのですが、三角形の突端は「タイタニックポーズの場所」と私たちは呼んでいて、もし皆さんここに行かれることがあったら、ご夫婦で奥さまを抱いて持ち上げてみてください。
 ナイトライフでお金を使う、レストランに行く、バーに飲みに行くだけではなく、公共的な場所が提供されることはとても大事なのではないかと思います。つまり、ここはお金がかかりません。お金を取れない場所に、この事業者は屋根をこんなふうに整備して資金を投じてくれたのですが、例えばヨガをする人が出てきたり、私はこの写真が実は好きで、右側に女性が4人座っていると思います。年配の女性ですが、恐らく夜9時ごろだったので、お食事をした後にここでおしゃべりしていらっしゃるのだと思います。男性だったら川を越えてネオンの方に遊びに行くのだと思いますが、女性はここでおしゃべりをしています。この写真を撮ったとき、私は建築家としてとてもうれしい思いがしました。

 ここからはNPOの話をさせてください。私たちのNPOは、50人のメンバーで活動しています。いろいろな立場の方がいます。偉い方もいれば学生もいますが、みんながフラットな構造で活動しています。バックグラウンドもさまざまで、建築だけではなくてインテリアや建築写真家、グラフィックデザイナーウェブの方など、いろいろな方がいます。なぜ私が学生に参加してもらってこのプロジェクトを始めたかというと、2007年に福岡のまちをとことこと歩いていましたときに、大分出身の日本を代表する建築家、磯崎新さんが若いときにデザインされたあるオフィスビルがありました。そこに足場が掛かっていて、「あら、何か改修でもしているのかしら」と思ったら、実は壊されていたのです。磯崎さんはまだご存命ですし、本当に日本をリードされてきた建築家の作品が、地元の建築家である私が知らないうちに壊されていることに非常にショックを受けました。
 それから、シカゴアーキテクチャーファンデーションにヒアリングに行ったり、いろいろな人に応援を請い、建築を残すために何をしたらいいのかを考えました。建築が壊されるときに「反対」というプラカードを揚げてもほとんど無力です。日本建築学会のいろいろなお偉い先生がそこにコメントをなさっても、なかなか残すことができません。だったら、もっとさかのぼって、市民がこの建築が愛する、市民がこの建築を誇りに思うような土壌を耕すプロジェクトをやろうと思ったのです。「反対」というプラカードを揚げるよりも、もっと楽しく、もっと笑顔が生まれるようなものです。

 今やっているのは、建築のツアーです。これも一般向けなので、非常に分かりやすく、老若男女に伝わるようなお話をしています。また、デザイナーを呼んでレクチャー、ワークショップをしたり、子どものデザイン教育もしています。また、情報アーカイブやいろいろなツールの開発もしています。円卓に5冊ずつほど持ってきたのですが、マップを作ったり、スマートフォンで見ながら建築を見て回れるようなこともしています。

 いろいろな建築をご紹介していますが、福岡は第二次世界大戦前の建築がほとんど残っていません。ほとんど焼けています。また、金沢と違って、福岡はどんどん壊すのが好きなので、右上にある九州大学のキャンパスも多分、この工学部本館は残ると思いますが、あとは軒並み壊されてしまいました。先ほどスマートイーストの話がありましたが、スマートイーストをやる一方で、かわいらしい大正時代の建築が残っていれば、いろいろな時間の積み重ねができたのではないかと思って非常に残念です。

 これは不動産会社の社長として今年取り組んだプロジェクトで、「大名week」というものです。「大名」というのは、福岡のあるまちの一角の住所です。この地図でいうと左側に丸い水があって、これが大濠公園といいます。その右側にある大きなグリーンが福岡城跡です。その上に青いラインがあると思うのですが、これが昔の堀で、本当は那珂川まで幾つかの堀がありましたが、ほとんど埋め立てられてしまいました。このちょうど地図の真ん中にあるのが大名です。那珂川の西側ですから、武家側、黒田藩側のエリアです。そこで「大名week」というイベントを、「大名の400年を知る13日間」と題して行いました。
 江戸から現代までのさまざまな地図のうち、ほとんどの地図は県立図書館にデータ化されていたので、そのデータを借りて、その地図を大きく拡大したり、または小さくプリントしたりして、まちじゅう歩きながらそれを見られるようにしたのです。

 これが大名のエリアなのですけど、道が丁字路になっているのが分かるでしょうか。あみだくじのようになっていると思います。福岡はほとんど戦争で焼けたのですが、このエリアは空襲を免れたので、昔の防御を意味する道の成り立ちがまだそのまま残っているのです。従って、天神という非常に商業が集約しているまちの後ろに界隈性が残っています。 昼の部、夜の部とあり、昼に見られる場所と、夜に見られる場所を設けました。夜はワインバーや居酒屋やバーなどでも見られるようにしました。
 また、例えばバーの場合、「あなたは今、1650年の地図だとここでお酒を飲んでいます」とか、「ここでワイン飲んでいます」とか、「ここは堀だったのだな」とか、「私は今、堀の上でお酒飲んでいるのだな」ということが分かるような取り組みをしました。非常にたくさんの市民の方が来てくださいました。

(佐々木) もう少し夜に焦点を当てて、太下さん、金沢の夜の熟成についてこういう方向があるとか、こんなことをやってみたらという提案があれば。松岡さんも同じように、福岡の話はある程度分かったので、福岡の夜と金沢の夜との関係で、金沢はもう少しこういう夜の熟成の仕方があるのではないかということで、それぞれあと2〜3分ほどお願いします。

(太下) 最初のまちづくりのセッションで竹村先生からご提案のあった「人間優先の道空間」は、夜を考える上でも非常に重要だと思っています。先ほどご紹介したとおり、ニースのような所では、本当に車を気にせず歩行者、観光客も住民も夜ずっと家族連れで歩き回れるような空間があります。これはバスクのバルもそうです。歩行者だけの空間の中ではしご酒をしています。そういうエリアが非常に多いです。バルセロナのスーパーブロックにもつながるような話かと思いますが、歩行者が安全に楽しく夜を歩けるような界隈性のある道空間のデザイン、しかも金沢らしい空間づくりが非常に大きなポイントになると思いました。
 それから、やはり最初のセッションで竹村先生からあった、公共的施設への転用という話です。これももし金沢の中心部等で公共施設、ないしは民間施設であってもそれを公共が間に入ることによって公共的な活用をしていくのはありだと思います。そういうことができるのであれば、特に夜というテーマにおいても、より活性化していく可能性はあると思います。夜だけしか見られないようなものがあると、やはり非常に行く誘因になると思うのですが、経済的に考えると、夜だけというのはなかなか採算が取りづらいだろうと思います。いろいろなビジネスを考えるとそう思います。だから、逆に言うと、ぼったくりバーはぼったくられるような料金になるわけです。
 しかし、それが公益的な機能であるとすると、夜だけというのも成り立ち得る可能性はあるのかなと思います。別に具体的なイメージがあるわけではないのですが、私は市営のクラブがあってもいいと思うのです。それは多分、期間限定だと思います。実際にまちが成熟していって、普通に民間事業者がクラブを設置するまでの間、金沢市営のクラブがあってもいいのではないかと思います。今のは極端な例ですが、人間の体のツボを刺激するように、夜だけ何か活動するようなものがまちなかに政策的に導入されても面白いのではないかと思いました。

(佐々木) 実は金沢で24時間営業しているものがあるのです。市民芸術村です。これは芸術活動に焦点を当てているけれども、世界で最も進んだ運営形態で、国内では一つもまねができていません。だけど、市民はあそこを楽しめるけど、そこまで行く公共交通が夜にないから、もうちょっとああいうものを、それこそ先ほどクラブと言われたので、市民芸術村をいろいろな人が楽しめるクラブにしても面白いですね。そもそも24時間型になっているのだから。
 それから、松岡さんにちょっと質問ですが、先ほどのスライドの中で一番印象的だったのが、那珂川の突端で女性4人が並んで見ていた写真です。大体金沢の夜は男性の夜なのです。女性が何の目的もなく行って、ただぼーっと見ている空間はとてもすてきです。つまり、女性だけでも行ける、もちろん夫婦でも行けるのだけど、そこにあるまさにコンセプト。

(松岡) ナイトライフを違う意味に転化しないといけないのではないかと思います。享楽的であったり、エネルギーを浪費しているとか、電気垂れ流しにしているというふうになると、何か違うのではないかと思います。最近よく言われているSDGsをちょっと持ってきました。
 いろいろなジャンルがあって、持続可能な開発目標ということで17の目標、160のターゲットがあります。この中でもしナイトライフに使えるものがあるとしたら何かと思ったのです。例えば「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」というターゲットであれば、絶対にごみを出さない、食料品の無駄を出さないナイトライフを金沢でやるとか、持続可能な消費と生産なので、食べているものが非常に近場で運ばれて地産地消になっているとか、SDGsになぞらえてナイトライフの意味をシフトするようなやり方は何か一つないのかなと思いました。

(佐々木) 11番の「住み続けられるまちづくりを」に私は関心があるのです。これが都市の話で唯一具体的に出ているのです。都市と人間居住地域をレジリエントで、そしてインクルーシブ、持続可能にするということです。これはナイトライフでやったらどういうことになるだろう。

(松岡) ごめんなさい。私はあえてここを赤で囲まなかったのです。というのは、私たちは都市の専門家なので、都市のことを語りたくなってしまうのですが、目線をシフトして多くの人の支持を得るには、都市はあえて語らないようにしようと思ったのです。

(佐々木) では、宿題にしておきましょう。明日、全体討論でまたお話しいただいた方がいいと思います。
 確かに、価値観を転換する、視点を転換して、これまでのナイトライフに別の光を当ててみることはとても面白いと思います。金沢のまちは、北陸では最もナイトライフが豊かです。それから、先ほどの公共交通機関でいくと、私は名古屋の生まれだから、名古屋の夜はとてもつまらないのです。それで、名古屋市長がどんなに頑張っても魅力がどんどん落ちています。その原因は、名鉄電車の終電が早いからです。もうはっきりしています。
 だから、安全な乗り物がまちじゅう動いているという形はやはりモビリティであり、ナイトライフの一つのポイントになると思っています。そうすると、子どももというわけにはいかないけれども、女性が安心して出ていけるし、そうしたら夫婦も恋人たちももっといきます。
 市民芸術村の24時間運営がうまくいった後で、私と福光さんで当時、市長に頼まれて21世紀美術館のコンセプトを考えました。21世紀美術館をそういうものにできないかということです。美術館の24時間営業はとんでもないと言われたのですが、週末くらいは遅くしようということで、当時は日本の公立美術館で初めてだったと思います。結局、美術館は公園のような美術館だし、人々が集まってきて、別に鑑賞するわけではないけれども集まってくる場所です。安全な公共空間と言われたけれども、何かある目的を持って集まるのではないのだけど、ともかく行ってみて、座っているだけでもいいというのは、金沢でどんな場所が今あるのかなと改めて思った次第です。

 

お礼の言葉/米沢 寛(金沢創造都市会議開催委員会実行副委員長/一般社団法人金沢経済同友会副代表幹事)

 1日目の13時から4時間半にわたり、大変長時間ですが、ご参加いただいた皆さんには心から感謝申し上げます。またセッションに参加いただきました皆さま方には、大変興味深く、長い時間もあっという間に過ぎるような良い時間をつくっていただいたことに心から感謝申し上げたいと思います。明日10時から山野金沢市長にもお入りいただきまして、今日いろいろ出ました課題や問題を解決に導けるかどうか分かりませんが、話し合ってみたいと思っています。
 今年は前市長の山出保さんが岩波新書から4冊目の本を出版されました。売れていて、もう増刷にかかっています。彼とともにここで話した問題がいろいろ具現化していったわけです。『まちづくり都市 金沢』という本です。この本には彼のまちづくりの哲学や理念、政策を実行・具現化するまでのプロセス、何といっても行政のトップとしての責任と覚悟がしっかり書かれています。改めて素晴らしいトップを持ったなと思っていますが、好きな言葉が「まちは市民の手による芸術品」と書いてあり、われわれの責任は重いなと思いました。ただ、最後の方に「今の金沢は金沢らしさが若干薄れている。そして、文化も資源もやせるのだ」と書いてありました。いま一度原点に戻って、まちづくりを考え直してみようという提言を彼もしていて、現在活動しているわれわれとすれば、もう一度その辺をしっかり考えていかなければならないと思っています。皆さんのお力をお借りして、やはりいいまちにするようにわれわれも頑張りますので、よろしくお願いします。
(佐々木) 1日目のお礼のご挨拶をさせていただきました。宿題です。ナイトライフとは何か、どうもよく分かっていないということがよく分かりました。夜、食事をしたり、劇場に行ってプログラムを鑑賞するのもナイトライフなのでしょうが、飲み屋で酒を飲むのもナイトライフなのですけど、インバウンドの方があれだけ日本に文句を言うのはなぜなのか。だから全体に、例えば劇場のスタートを一斉に夜の8時半からにしたら、レストランで食事ができて、その後劇場に行くとか、逆に劇場が6時半から動かせられないのなら、全部のレストランは夜の1時までやってもらうとか、そのようなことも一つなのですけど、そういうことはナイトライフなのだろうか。
 ということで、皆さん明日お出ましの方は、この円卓の方はもちろんですが、ナイトライフとは何か。先ほど松岡さんも、何か翻訳し直した方がいいとおっしゃったところで今日終わりましたので、ちょっとそこをきちんと因数分解か何かしないと答えは出ないだろうと思いますので、よろしくお願いします。

 

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