第5回金沢学会

金沢学会2010 >第1セッション

セッション1

■セッション1 「情報を発信する」

●ワークショップ報告 
宮田 人司氏((株)センド代表取締役、クリエイティブディレクター)
●コーディネーター  
大内  浩氏(芝浦工業大学教授)
●パネリスト     
菱川 勢一氏(ドローイングアンドマニュアル(株)代表取締役、武蔵野美術大学教授)
宮田 人司氏

 

 

 


   

モノづくりのライブな魅力を、いかに伝えるか

宮田氏による「金沢アプリ」のプレゼンテーション
※昨年のKANAZAWA BANDから派生した、携帯向けのアプリケーションの提案

(菱川) 鹿児島の百貨店の例の前に、ここで話したいのは四国の松山の例です。松山は、やはり「坂の上の雲」のドラマをきっかけにして、去年1年間で経済効果は50億円と聞いています。2009年の話は舞台が松山でした。秋山真之・好古、正岡子規の3人の若者たちの出身地松山がフューチャーされた。これは金沢でも昔「利家とまつ」の時はだいぶ注目を浴びたかと思います。同じように松山が今注目を浴びて、「竜馬伝」では長崎が注目を浴びたというような、まだまだNHKのドラマの力というのは強いなというものを見せつけられる事例なのですが、ここで大きいのは、NHKは別に松山を宣伝したわけではないのです。松山を舞台にした。それに呼応したというか、一度行ってみたいというように思って観光で盛り上がっていく。そういう、ある意味純粋な事例です。
 ドラマとしては松山をもちろんきれいに撮ったわけですし、特段何か観光地としてフューチャーするような扱いではなくて、純粋に文学の良いところを注目し、それで取り上げていったという非常に純粋な流れでいったわけです。やはりドラマを見てみると随所に松山の名所が映し出されるのですが、あくまでも物語に沿った形で映し出されているというようなことがよく分かります。ちょっと見たいところなのですが飛ばしていきますね。1話から5話は今TSUTAYAさんでレンタルしていますので、よろしかったら見てください。
 僕は、D&DEPARTMENTのショップ事業を通じて伝統工芸品というようなものをいろいろな形でフューチャーしているという話をしましたが、実は自主制作で、これは完全に自分たちの持ち出しでしかないのですが、われわれの取り扱っている商品は、われわれがカメラを担いでいって取材をしてポットキャストで流しています。それはなぜなら、売っている商品がどのような形で作られているかというのを見てほしいからです。
 静岡のサイトウッドというところに取材をしに行ったときの映像は、僕らが撮影をして、編集をして、Web上で流しています。お店がここまでするというのは非常に珍しいのです。もちろん費用が掛かります。ただ、われわれの強みは、母体がデザイン事務所です。映像の編集室も持っていますし、Webを作る力もあります。カメラも持っていますし、そういった製作機能がすべてそろっている上で、さらに売場を持ったという経緯があるのでできているとも言えるのですが、それなりに費用は掛かりつつもこういうことをやって初めて皆さんの共感を得て、物を買ってくれているというような非常に好感度の高い流れができているなと思います。
 結構ダウンロード数が大きくて、特にこの映像はそのものがどのように作られているか、2〜3分で見られるように工夫しています。なぜ2〜3分だったかというのは、先ほど宮田さんから紹介していただいたiPhoneや、もっと言えばPodなどがありますが、調査をすると、特に都心では、電車に乗っている平均時間が2分30秒と意外と短いのです。ちょこっと乗っているのです。地下鉄や山手線を中心として大体2〜3分なのです。これが平均的だと言われています。その間に、ぽっと気軽に見てほしい。これを発信の一つの工夫として、ついついこういったドキュメンタリーというのは長く長く語ってしまいがちなのですが、2〜3分でまとめて見せようというような工夫で、こういった粛々とものづくりをやっている様子を、若手たちが関心を引くように工夫をして映像にまとめて、無償で配信をしております。いまIKEAなど外資のおしゃれな家具が都心にはいっぱい進出してきているのですが、それでも若手たちが、 SAETO WOODを買ってくれるというようなすごくいい状態になっていると思います。
 それに加えて、われわれは去年から会社の中に雑誌の編集部を作りました。『d design travel(ディ・デザイントラベル)』という雑誌を作って出版しています。これは、はじめ大手の出版社にプレゼンをしたのですがどこの出版社も採用してくれませんでした。売れないという理由です。それで、自分たちで出版社を立ち上げました。今「静岡号」を作っておりますが、11月25日には「長野号」ができました。自分たちで取材をして、自分たちで広告を取ってきて、地元の企業から広告を頂いて、その広告は自分たちでデザインをしています。広告主からの出稿は受け付けていません。われわれが若手に届く表現をします。広告を出していただいて、われわれがデザインをしますという形で広告をデザインして、中に入れて売っています。
 はじめは、出版社の方々からかなり厳しいご意見をいただいて1000部も売れないだろうと言われたのですが、今5000部を突破しています。売っているのは店頭および共感をしてくれた書店の店頭です。つまり自費出版です。雑誌コードも取っていません。そういった販売ルートも取っていませんが、通販とわれわれのお店の店頭と、後は共感をしてくれた書店の店頭で売っております。執筆者なのですが、かなり著明な方々が執筆をしてくれています。ほとんど無償なのです。われわれからは支払える原稿料は数少ないのですが執筆していただいている。プラス、ものづくりをやっている方々に直接書いていただいている。テーマは『d design travel』というように掲げていますので、デザイントラベル、つまり、ものづくりやデザインをめぐる旅です。今まで出版したのは、「北海道」「鹿児島」「大阪」「長野」、次に「静岡」でいこうとしています。
 この出版と同時に、iPhoneのアプリも、いわゆる掲載情報の中を、なおかつ実際に行ってみようと思った人たちの補助になるような形で無料で提供しています。これはメルセデスベンツがスポンサードしています。
(以下スライド併用)
ソーシャルメディアを活用した情報発信
 下の方に小さく、ほとんど見えませんが、一番左の画面の一番下に何やらアイコンのような上、真ん中に黒い豆粒のような、そこだけです。そこは実は車の形でぐいっと動くのです。それがメルセデスベンツのスマートという車のシルエットです。それをクリックすると、実はメルセデスのウェブサイトにぽんと飛ぶような仕掛けになっているのですが、メルセデスさんがそれでいいということです。要するに、メルセデスはすごいですよなどという広告をここに出すつもりはさらさらない、ちょっとだけメルセデスのイメージアップになればいいと、それでこのアプリの開発費をすべて出すというようなすごく進んだ考え方だなと思いました。アプリの中を少し、時々車が横切るというようなことをやっています。

 『D Design travel(ディ・デザイントラベル)』では、金沢ももちろんたくさん取り上げていて、今回21世紀美術館で展覧会をやるのに合わせてアップデートをして、金沢のいろいろなデザインのポイントを紹介しています。意外と僕の周りには、「金沢といえばここだよね」などということが詳しいデザイナーが少しずつ増えているのです。「何でそんなことを知っているの?」というように突っ込みたくなる。やはり、このアプリを見て、「行きたいな、行きたいな」というように眺めてくれているのですよね。そんなふうになっています。

 さらっと鹿児島の事例を紹介したいのですが、天文館エリアというものが鹿児島にあります。鹿児島の地元の人に言わせると、「ああ、天文館エリア」というように言う、鹿児島の駅前ではなくて駅前から少し外れた所です。そこで老舗の百貨店の丸屋というものが昔からありました。実は、数年前に三越がその丸屋を買収というわけではないのですが、三越という名前になって、丸屋さんは丸屋の看板を下ろして「鹿児島三越」としてやっていました。一昨年、三越が鹿児島から撤退するということになって、建物だけが残るというような形になるということで、地元では、ある意味、大騒ぎになったわけです。何が大騒ぎになったかというと、そこで浮上してきたのが、もともと百貨店の建物を使って大きなパチンコ店にするという計画です。郊外にはイオンが進出してくるという計画が上がった。
 これに対して地元の人たちの署名運動が始まります。実はその署名運動の人数が半端ではない数なのですが、それで、その署名運動で最後にはイオンが出店をあきらめます。地元の人たちが丸屋に直談判をして、丸屋を復活してほしいと。それに応える形で、もともと丸屋は香港にあるのですが、香港で社長をやっていた玉川社長という女性の社長を呼び戻して丸屋復活ということで動き始めました。これが一昨年から昨年にかけてです。
 その玉川社長が集めたメンバーが、内外装の改装でみかんぐみという建築の集団と全体的なプロデュースをうちにいるナガオカケンメイを指名して、クリエイティブのディレクターとして僕を指名してくださいました。それで、地元の人たちと一緒にやってほしいというようなことで依頼を受けて、われわれと地元の方々で一緒にやってきました。
 ファザードのロゴやウェブサイト、サイネージなどを僕らの持ち得るノウハウで作っていったのですが、これらは実はクリエイターをはじめとしていかに地元の人たちと一緒にやっていくかということに気を付けました。つまり、僕は東京に事務所を構えてやっていますが地元のデザイナーと一緒に、僕やナガオカはディレクションだけをやって、足しげく鹿児島に通いながら一つ一つ作り上げていきました。
 CMの提案というような形や広告の提案という形をどのようにしていくか。残念ながら、地元の、あえて名前は伏せますが、鹿児島に土着していた広告代理店さんは、申し訳ないけれどもという形で切りました。理由は、タレントを起用するといったプランしか持ってこなかったからで、そういった形ではない形をとっていこうということで、あとCMも限られた予算ですので、オープンの前日1日だけ集中投下するというような形で、しかも出演者は地元の人たちであるというプランでやっていきました。これは後々ものすごく大きな反響を呼ぶのですが、しかも1分CMを流す。一日限り1分CMを繰り返し流していこうという集中的なことをやって話題になりました。

これがその1分CMです。

 ある意味ですごくベタなCMですし、これといって飛び抜けた表現はないのですが、このクリエイティブというのは、知る人ぞ知る存在なのですが、ワイデン・アンド・ケネディというチームと一緒にやりました。これはグローバルのナイキのCMをやっているところと一緒にやっています。で、地元の人たちと作ろうというようなことで、一緒に鹿児島に行って、一部出てきましたが、障害者施設を訪れて、そこでものづくりをしている現場を撮影し、映画同好会が会合しているところにお邪魔して撮影をし、鹿児島大学の学生たちを集めて撮影をするというようなことをやっていきました。
 こういうワークショップです。百貨店の再生ということだけだと、ただ単にデパートが復活するということだけで終わってしまうので、先ほど「ここは買い物集会所」というコピーがありましたが、全フロアに必ず集会所を作ってくださいということを社長にお願いして、実際に集会所を作っていただきました。映画同好会の方々がものすごく熱く「ミニシアターを作ってほしい」ということで玉川社長にプレゼンをして、ついにはフロア8階にミニシアターができました。今、地元の映画同好会の人たちがそこを運用しております。アウトドア同好会の人たちは、好日山荘というアウトドアショップと一緒に、屋久島のシーカヤックワークショップ等を進めています。そういった地元の人たちのやっている同好会や大学の学生というものを巻き込んでいく。そのようなことを一個一個積み重ねていったのです。

 これがワークショップをやっている様子です。もちろん今オープンして、今もずっと続いています。すごく面白いなと思うのは、大抵集会所というのは、おじいちゃん、おばあちゃんが集まったようなところを想像しがちなのですが、若手たちが、良い意味でのたまり場にしている。そこで宿題をやったり、ワークショップをやったり、「今度どこへ行く?」などということの計画を練るというようなことをやりながら、すぐ横でおばあちゃんたちも集まっているということに今はなっています。

 参考までに持ってきたのですが、丸屋さんのすぐ近くに山形屋さんという競合の老舗のデパートがあるのです。そこで下りた垂れ幕です。普通、競合は、もちろん競合ですのでこういうことはやりません。いかに地元が盛り上がっているかということだと思うのです。
 僕は、これを通じて学んだことです。広告代理店の発想は、いかに大量に広告を打つかというものにとどまっていて、愛が足りない。本当に心底そう思いました。次から次へと持ってくるプランを、しまいにはナガオカが次々に破り捨てていくという。失礼だったかもしれませんが、それぐらい本気だったのです。
 もっと心底思ったこと、小手先の発信はみんな見抜きます。「いいですよ」とか口先だけで言っているのはみんな見抜くというように思いました。いいものはいいというようにみんな思うなと。はじめ僕らも地元の人たちと一緒に盛り上がるなどということはよく分からなかったのですが、どんどんブログが盛り上がっていくのです。そのときにはもうツイッターというものができていましたから、どんどん盛り上がっていく。オープン後がすごかったのです。オープン後に、「ここ、すごいよ」「ここ、すごいよ」ということがぶわっと広がっていくというような。なので、広告でわれわれクリエイターやデザイナーが気を付けたこと、過剰広告、過剰な表現をしない。駄目なものをいいと表現しない。いいものはいいと言うけれども、駄目なものというものについては言及しない。そのような、ある意味正直に伝えていくということを心掛けました。

 「丸屋さんをはじめ発信の仕組みだけを第一線のノウハウを投入し」という、ワイデン・アンド・ケネディさんと一緒にやったものというのは、ある意味、地元のクリエイターにとってみるとものすごい刺激だったのです。ナイキのCMなどで培ったノウハウを、地元のクリエイターと一緒にやっていくことで、もともと持っていた地元のクリエイターたちのポテンシャルというものがぐっと上がっていくという、それがすごく見ていて発火点になったなというようには思いました。
 出来上がって今完全に地元にシフトしていますが、Webをもっともっと盛り上げていく、できるだけ地元のデザイナーがやっていただくことで、完全に地元にシフトしています。なので、われわれは、時々見守って足しげく自費で遊びがてら鹿児島に行くというようなことをやっています。結構熱くやっていたので、行くと、地元の人にお酒をおごってもらったりして、なかなか面白くやらせていただいていますが、今は、地元の人たちがうまく運用してくれています。

 広告やPRの一連の経験で、僕が学んだことは発信の誠実さです。人を呼ぼうということは、すごく良いことなのですが、何で呼ぶかをしっかりと考えた上で、それを正直に誠実に伝えていくことが、実は伝わることになるのだということです。何か参考の事例になればと思います。鹿児島では最近玉川社長に聞いたのは、静岡県、秋田県の県庁の方々が視察に訪れたと聞いております。そういった形で、一つの事例として見られているようです。

(大内) ありがとうございます。大変面白い話を実例としてご紹介いただきました。失礼ながら、菱川さんのいろいろなバックグラウンドを事前にちょっと拝見したのですが。私も今聞いていて、はっとするような大事なキーワードが菱川さんの口から紹介されたのではないかと思うのです。 
 デザイナーが売場の現場を知る必要がある。逆に言うと、現場を知ることによって、そこからさまざまなクリエイティビティが出てくるということ、そこが今までないがしろにされていたということかもしれませんし、それは消費者の側で言うと、ある種のマスマーケットに対する飽きというか、反抗ということも背景にはあるのではないかと思うのです。
 そして、「デパートメントからユナイトメント」、なかなか良い言葉だなというように、1分間のCMの中からも拝見しました。いろいろな意味で、今までばらばらになっていた、あるいは上手につなぐことを知らなかったけれども、潜在力をいろいろ持っていたものをユナイトされたのではないかと思うのです。そのユナイトされたことが結果的に1+1が3、あるいはもっと掛け算になって、そして広がっていったということに多分つながったのではないかと思います。

 菱川さんの口から愛とか誠実という言葉が出てくるというようには僕はちょっと想像していなかったのですが、ただ、私も若い人たちに接していても、何か空虚な愛とか誠実ということは彼らはすぐ見抜きますから、そんなお説教くさいことを言ってもぱっと引いてしまうのですが、リアリティのあるものに接しながら、愛や誠実さということは逆に彼らはものすごく飢えているというか、それを欲しているということが今の現代社会の一つの実態であるということが今のお話からもあったのではないかと思います。
 宮田さん、今の菱川さんの話を聞いていて、多分宮田さんは新しいソフトをたくさん開発したのではないかと思いますが。

(宮田) 前回もイート金沢(eAT KANAZAWA)のオープンカレッジに来ていただいたときに僕もこのお話を伺って非常に感銘を受けたというか、素晴らしい仕事だなと思ったのです。今日の金沢学会でぜひ財界の方に聞いていただいて、僕が受けた衝撃が伝えられればなと思って、それには菱川さんに来ていただくしかないなと思ったのです。それで、「お願いしますよ」と言ったら、「ぜひ、ぜひ」などと言っていたら、翌週に「おれ、スイスだ」みたいな話になってしまった。そこを何とかと言ったら、「じゃあ、行くわ」と。
 今日、大内先生にも聞いていただきましたが、、仕事もすべて丁寧だと思うのです。誠実や愛とおっしゃっていましたが、人柄が表れているのだと思うのです。僕もいろいろなデザイナーとお仕事をさせていただいたり、お世話になっていますが、多分一番丁寧な方だと思うのです。

(菱川) ありがとうございます。

(大内) 例えばものづくりの現場。私も金沢へかれこれ30年近くお邪魔しているのですが、その過程で、ものづくりの現場をちょっと拝見したり、あるいは、そういう方たちとお話ししていますが、いつも感心するのは、どうしてそこまでこだわるのか、別にマーケットはそこまで要求していないのではないかとか、あるいは逆に消費者はそこまで分からないのではないかとまで思えるのだけれども、でも職人として許せない。要するに、おれたちの持っているさまざまなノウハウを結実させる、ここまでできるというところまでとことんやりますよと。いまの時代はそういう世界というのが何かないがしろにされている。逆に、そこへ若い人たちなり、あるいは今までそれを知らなかった人たちを上手に紹介していけば、そこから彼らが受け取るものがあるのではないか。彼らは、もしかすると言葉に表せないものを感じているわけですよね。

(菱川) そうですね。以前、D&Depertmentの北海道の店で、高橋工芸さんという地元で有名な紙グラスと言って、北海道のシラカバを材料にした木を削ってコップを作るという職人さんがいらっしゃるのですが、ぜひとも店頭で実演販売してくださいというようにお願いしたのです。「実演販売なんかできないよ。だって削る機械でやるからさ」とおっしゃったので、「分かりました。機械を持っていきましょう」と言って、えらい大変だったのですが工場から機械を持ってきて店頭で削ってもらったのです。何十人か来て、やはり工芸品に関心のある人たちが集まって、目の前で削っていって、ものすごい薄いものが出来上がっていくさまを目の当たりにすると、みんなびっくりしますよ。そのときに機械を運ぶのが大変だからやめよう、では口だけで、スライドを見せて、というようにしたら多分伝わらなかったのですね。削るさまを目の前で見せるというようなことというのはものすごく大事で、僕は先日、箔一さんに連れていってもらって、とんとんと金箔をたたいている様子を目の当たりにしたのですよね。1万分の1ミリの薄さにしますという説明をいただきながら、あれはすごいですよ。これをどうにかして見せてあげたいなとか。

(大内) 米粒を畳一枚にして見せるという世界ですよね。

(菱川) はい。先ほどから21世紀美術館のお話をいろいろとお伺いするのですが、例えば21世紀美術館のどこかのコーナーで、あれがとんとんとんとやられているというようなことだと、多分いわゆる職人芸というものがある意味芸術なので、年間に100万人以上いらっしゃっている中で絶対見せたいですよね。100万人に見せたい一つだと思うのです。ものづくりというキーワードだけ拾っても福光屋さんの酒造りの様子などいろいろなコンテンツが金沢にはあって、見せなければいけないのは写真でという、ある意味、お手軽に見せてしまうことではなくて、ちょっと手間だし、しんどいかもしれないけれども、リアルに見せる時の印象の伝わり方が全然違うんですよね。僕も箔一さんの金箔製造工程を目の当たりにして、すごいなと思った。

(宮田) ライブが一番情報量がありますからね。

(菱川) 本当にそうなのです。

(大内) 生が一番情報量が多い。確かにそうですね。リアリティがそこにあるということは、とんでもない情報量があるということですよね。なるほどね。

(菱川) そうですね。先ほどストローという話がありましたが、ここに来たら見れるよというのは本当に重要なコンテンツなのですよね。東京に持ち込んで、ちら見せするというようなことはすごくいいのですが、やはり来てもらって、その現場を見てもらうこと。恐らくいろいろな地方で、いろいろな好事例があって、そこのキーワードを拾っていくと、必ずリアルとかライブという。北海道の旭山動物園などはそうだと思うのですよ。行かなければ見られないという状況に非常に価値があるなというようには思いますね。

(大内) まさに今の皆さんが関心を持てるようなリアルな、そして本物を上手に発見してあげて、さらにそのままではなくて、それをある意味で、マスマーケットでもあるのだけれども、大衆にどう伝えるかというところで、菱川さんたちのような方たちがお手伝いをして、その過程でさらに地元の方たちもコラボレーションするわけですよね。そこで今までにない人のつながりが生まれると、これは決して消えないというか蓄積になっていくし、まさに誰にもものまねができなくなる、そういうノウハウになっていくわけですよね。

(菱川) 宮田さんから先ほど紹介いただいたシステムというのは、もしかしたら気軽に金沢に来た人が、その後、金沢に深く関心を寄せるかどうかのきっかけなのですよね。きっかけで、そこでぐっとつかんでくれたら、ぐっと掘り下げれば掘り下げるほどきっと出てくるのですよね。

(大内) そうですね。実際に金沢経済同友会、あるいは経済界の皆さんは今金沢検定というようなこともやっていらして、その中には本当に金沢の物知りという人が、決してどこかの学者やどこかの文化人と言われる人ではなくて、本当にまちのおじさんたちだったり、おばさんたちがものすごくあることについて詳しく、そして経験もお持ちという方たちのノウハウなり知見が、例えば宮田さんの掲示板をきっかけに上手に社会に出てくればいい。

(菱川) そうですね。例えばJR東海さんが「そうだ京都、行こう。」というキャンペーンをやっています。あのキャンペーンはかれこれ十何年やっているわけです。昔は「シンデレラエクスプレス」などといったことで、いわゆるJR東海の売りは新幹線というものだったのです。それが次に京都というものを見出したわけです。京都へ行くなら新幹線に乗ることは当たり前だからというような形で、京都というものを見出して、やっていった。そこですごくお手本なのは、京都の良さを見せるということだけに一点集中していくのです。
 毎年、夏以降、秋口になってくると必ずJR東海さんは駅に「そうだ京都、行こう。」という、それだけのキャッチコピーとともに大きなポスターが張られます。僕らはある意味デザインのプロですからぱっと見で分かるのですが、印刷が半端ではない凝りなのです。いかに紅葉をきれいに見せるかというようなことだけに集中するのです。そこにはタレントもいないですし、きっとそこにしか集中していないのですよね。春になれば、同じ「そうだ京都、行こう」というキャッチコピーでも、春の桜のきれいなものがポスターでぽんと張られて、CMではきれいな桜吹雪の情景が流れると。
 ご存じかどうか分からないのですが、JR東海さんのやられている「そうだ京都、行こう。」CM制作チームというのは全員京都在住です。いきなり電話がかかってくるらしいのです。「今日いい紅葉だから撮るぞ」というようにクルーに電話が回るらしいのです。いきなり撮影が始まるらしいのです。それはやはり京都に住んでいないと、いい紅葉というのが、いわゆる段取りをしてなどというようなことでは撮れない。「今日撮るから」というようなくらいの気合の入り方なのですよね。あのコピーを作られたコピーライターもメーンのカメラマンもみんな京都在住だというように聞いていますが、それぐらい京都の見せ方、いかに京都を見せるかというところに一点集中なのですよね。そういう良いところというようなところにできるだけ集中をして、できるだけ、どんな印象を残すかということだけに集中をしていくというのは、一つのやり方としては京都などというのは少し参考になるお手本かもしれないのですよね。

(大内) 「そうだ金沢、行こう。」というのだと二番煎じになりますから。

(菱川) いや、先ほど、代表幹事のお話を伺っていて、新幹線が通るという話になって、JRはどういう広告を打つかなという発想になったのですよね。そこに人が動くとなったら、JRも多分黙っていないから、そのときに金沢にはどういうコンテンツがあるかなということを、お話を伺いながら頭の中でめぐらせていたのですよね。それが数年後だとしたら、今やるべきことは、「金沢は今ここが売りです」と非常に分かりやすい形で打ち出すべきだと思うのです。それが幾つか、やや散らかっているように僕などからは見えていて、すごくいいところっぽく見えているけれども、「何が1番」「どこ」「どれ」というような言葉がばしっと言い切れるような。一つの大きなコンテンツとして21世紀美術館があるということは間違いないのですが、誰でも「行ってみたい」と思うような分かりやすい一つの売りというものが見えてくると、すごく突破しやすいことになるのかなと思います。

(宮田) カニでは駄目ですかね。
(菱川) カニは、ちょっといいかもしれないです。
(大内) でも、もしかすると今までのカニではない。
(菱川) 僕は先月来てカニを買って帰ったのですが、若者には刺さりますよ。「カニだ。行きたい」と言いますからね。
(宮田) 言いますよね。
(大内) そのときに例えば宮田さんの掲示板というかメモリーツリーが、どのようにカニをとらえているかということがヒントになるかもしれないですよね。
(菱川) JRがカニをプッシュするのかどうか分からないです。えっと思うかもしれませんが、実は見せ方なのですよね。本当にそう思います。

(大内) 大変楽しいお話を伺いましたが、残念ながら時間がそろそろ来てしまいましたのでこのセッションを閉じたいと思うのですが、いろいろなキーワードが二人のお話からあったと思います。ぜひ、それは皆さんなりに参考にしていただいて、皆さんご自身のお仕事、あるいは、これからの活動に参考にしていただいたらよいのではないかと思います。
 今年の夏に、私の恩師で、大阪の民族学博物館の館長で、人類学者としても稀有な文化勲章を取られた梅棹忠夫さんが亡くなられて、2〜3週間前に大阪の民博でしのぶ会があったのですね。すごく面白いしのぶ会で、いきなり、しのぶ会の案内状に「一切の式典はありません」というように書いてあって、とにかく、その代わりしのぶ会を1時から5時ぐらいまでやっていて、そこに何千人の方が来られて、そして民博の至るところで梅棹先生をさかなにしてみんなでワークショップが始まってしまうという、そういうしのぶ会だったのですね。至るところでワークショップがあったものをベースにメモを書いていってくださいと、僕らは、梅棹先生の発明品のB6カードにメモを書いて、そのメモが多分そのうち編集されて本になってしまうのではないかと思っているのです。
 梅棹先生が以前非常に印象的に言われていた言葉を、私は最後に皆さんにお送りしたいと思うのですが、「アーカイブというのは常に文明の伝達装置なのだよ」。つまり、歴史というのは文明の伝達装置という意味づけに、要するに編集されなければ意味がない。つまり、博物館や過去の記録というのも常に現代のマーケット、あるいは現代の技術でもって、常に最先端のものでなければいけない。そして、最先端のものにならないとデッドなもの、死んでしまう。世の中には死んでしまったデータベースがいっぱいあるけれども、そのデータベースを常に最先端のものにしなければ意味がない。

Facebookは 5億人のコミュニティ
 今現在、私たちの世界には、いわゆる権威と言われる国であったり、あるいは図書館であり町とか、そういうところとかと全然違ったスケールで実はソーシャルネットワークができていて、私たち普通の人たちの目線、あるいは普通の人たちのアクティビティがアーカイブ化されていく可能性がこれからあるのです。それをどうやってみんなで交換しあい、そして、そこから何かを生み出していくかというのは、多分私たちに今問われている新しい動きではないかと思うのです。これがもしかするととんでもないことになるかもしれない。先ほど宮田さんからもありましたように、アメリカのフェイスブックの登録者が5億人、宮田さんのところも170万人が登録している。170万人の人が宮田さんが開発されたソフトを経由してお互いに情報交換をし、そしてそれが結果的にアーカイブになっていくのです。これがみんなの財産になっていくということから何かが始まるというか、そこでいろいろなことが始まるというのは、私は本当に期待もしたいし、面白いなと思っております。
 まとまりにならないようなまとめですが、今日は「都心」ということでありますが、多分都心というのは非常にいろいろな種類の人たちが集まってきているというのが、都心の面白いところでもありますので、金沢学会、あるいは金沢創造都市会議の活動の中でも、どんどん新しい今日ご紹介いただいた宮田さんのソフトウェア、あるいは菱川さんがアプローチされてきたような経験をもとに、私たちがこれから発展させていけばいいのではないかと思いました。
 どうも長時間にわたってご清聴ありがとうございました(拍手)。



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