■パネリスト プレゼンテーション
●小林忠雄
 昨年のプレゼンテーションで、私としては都市の迷路性の魅力というものを主張したつもりでした。今日は、もう少し金沢という都市を含めて、どういうことが問題になるのかをお話ししたいと思っております。
 私自身はもともと都市民俗学という分野で、金沢を中心にしたいわゆる都市にも民俗はあるのだということをずっと言ってきました。そうするとどうしても城下町の民俗ということになるのですが、どうもそれでは都市にはならない。いわば現代性が問われてきています。そうするといったい何が都市らしさ、都市性を持っているのかという問題に関係してきます。先程控え室で水野先生も「都市はもう共同体が崩壊しているから民俗がないのではないか」とおっしゃったのですが、そのことは私も多少考えており、最終的に感じているのは、どうも日本人の感性、つまり色彩 ・音・匂い・味覚・触覚などは変わらない。もちろん最近は若い人たちが、スナックなどの新しい食材に触れて、だんだん味覚が変化しているのではといいます。しかし、若い女子大生はやはり和食のすばらしい味に感動する。そういう意味では、この五感の民俗というものは日本人のなかに基本的にあるのだと思います。共同体で行なう、いろいろな社会慣習などは潰れていくかもしれない、あるいは形を変えるかもしれないけれども、感性に潜在しているものはおそらく変わらないのではないか。そこに新しいフォークロアの創出や、そういう感情の民俗が生まれてくるのではないかと考えております。もう1つ、技術がどう変化していくか。特に技術のシステムの伝承性のようなものに今注目しているわけで、この2つを現在都市民俗学のベースに考えております。
 実は柳田國男が『都市建設の序説』のなかで「都市は輸入文化の窓口」という言い方をしているのです。つまり外来の文化、西洋だけではなく、古代の奈良の都も、唐の文化を盛んに入れて都市を作った。つまり外来の文化を日本の都市はずっと受け入れて、そこで新しい文化都市といいますか、まさに創造都市、そういうもののベースになったのではないかということを柳田は主張しています。やはり都市は常に外来のものを受け入れ続けていく場所であるということが感じられます。
 この金沢の問題で注目されるのが、文化6年という時期です。江戸の数学者で独特の開国論を唱えていた本多利明が加賀藩12代藩主の前田斉広に招かれ、二十人扶持で金沢に召し抱えられます。金沢の明倫堂というところで教育を始めたわけですが、このときに集まった藩士はいろいろな影響を受けております。本多利明は、蝦夷地探索などで幕府から派遣されたことで有名で、そういう意味での世界を知っていた人だったろうと考えます。その利明の影響を金沢は受けている。その典型的な例は、そのころの加賀藩は大藩ですのでシステムが硬直化している。財政も含めて、いろいろな意味で現在の状況に非常によく似ている。そういう中で利明に影響を受けた加賀藩の書物奉行、長谷川猷源右エ門が自分の家でサロンを開くのです。いろいろな学者や経済人を招いて、日夜ディスカッションしていたと考えられます。中でも、この人は利明からは経済学を学んでいる。自分で地球儀を作って、「どうも日本は近々開国する。そうするといったい加賀藩は何を売ればいいのか。買うばかりでは藩の経済が疲弊するばかりだ」と考えていたわけで、『救荒新策』という経済書を出しています。特に藩経済の問題に長谷川は関わったわけですが、どうもその長谷川の屋敷に銭屋五兵衛や中村屋弁吉も来ていた。その長谷川サロンが藩の硬直化したシステムを、まさに構造改革しようという動きにつながっていくのです。さらに蘭学など新しいものも入れていく。特に銭五の場合には、ご承知のように全国に17の支店を持って、いわゆる商社方式を採った。これは多分東インド会社などの商法を真似ている可能性があって、長谷川サロンあたりから学んでいる可能性が高いということができます。
 このように考えてみますと、やはり新しい西洋の知識などの導入は、大都市が基本的には窓口であるとするのは、まさに柳田の指摘どおりであります。そういう意味ではもう少し外来の文化を含めたようなサロン作りというのでしょうか、そんなものが金沢にあっていいのではないか。これはもちろん今日の会議もそうなのですが、こういうイベント性のサロンではなくて、もう少し日常性のある交流があって、盛んにディスカッションができるような場で、同じ人が何回も来ていろいろな議論をしていくという場所も含めて都心に作られていくといいのではないかと考えます。後程のセッションの方でまた少し詳しくお話ししたいと思います。
  

金沢ラウンド誕生について
パネリストプロフィール
モデレータープロフィール
開会あいさつ
福光松太郎
プレゼンテーション
 水野一郎
 伊藤光男
 竹村真一
 米沢 寛
 金森千榮子
 市村次夫
 川勝平太
 小林忠雄
 大内 浩
 松岡正剛
 山口裕美  
 米井裕一
 佐々木雅幸
●セッション1
都心で実験してみたいこと
●セッション2
これから議論すべきテーマは何か
●セッション3
創造都市とは何か
 
全体会議のまとめ
委員長総括
実行準備委員会