■パネリスト プレゼンテーション
●川勝平太
 僕は京都に生まれ、高校生まで育って、それから東京の早稲田大学で学び、そこで奉職しまして30年間。そして今は長野県軽井沢に住んで4年目であります。これは個人的な経歴ですけれども、何となく日本の流れをも象徴しているという気もするのです。一極集中ということです。そして都心といいますか東京から田舎の長野に移るにつきましては、1995年の阪神淡路大震災があって、それを受けて国のかたちを変えようと中央の政策担当者もお考えになり、国土計画では、これからは一極集中から自然が多い地域を居住空間に変えていきましょうという国土戦略の第一戦略がうたわれているわけです。
 言い換えますと、都市を空洞化しよう、多自然地域に居住空間を作っていこうということは、地域に分散し、もう少し都市の過密をなくそうという話です。それに即応したかたちで、首都機能も東京から那須や東濃や伊賀など、緑豊かなところに移しましょう、そこでの最大規模は60万人くらいにしましょう、100 年や200 年は、10万20万くらいの規模でよろしいとを言っているわけです。
 それから、地方分権一括法という国の権限を各地方に委ねていくということもまた、都市から田舎へという流れですし、最近の過疎地域自立促進法もまた過疎地域が日本の美しい国の姿のモデルになるということです。今までは厄介者扱いだったのですが、立場が逆転しているわけです。さらに、新しい食料・農村・農業基本法というものが生まれました。これも今まで食料基地として見られていた農村、ここには多目的な役割、景観や風土、あるいは水の保全や環境の保持という多面 的な役割がある。要するに、農業、農村がモデルになりつつあるわけです。そういう意味で、これから都心が空洞化していくということが、国のここ5年くらいの流れから読み取れるということです。
 歴史的には確かに奈良、京都、あるいは鎌倉、江戸と、それまで後背地であったところが、新しく中心になっていくと言うことができます。それがこの国の歴史のかたちで、ロンドンのように一貫してイギリスの首都であるというような国のかたちとは違うわけです。そして今日本は、一極集中から多極分権へというふうに大きく変わろうとしている。
 そうした中で、それは全体の動きであると同時に、ミクロのレベルでも起こっています。例えば京都では、京都駅ができて、その南側に企業が新しいシリコンバレーのようなものを作っていこうと発展しつつある。あるいは新宿でも、新宿駅の山手線内には歌舞伎町があって、その外側は昔は裏だったわけですが、そこに今は高層ビルが立ち並び、表に変わりつつあります。これをどう読み解くかということです。かつての裏が表になり、裏表が逆転するというかたちで、気が付くと古いところがさびれているということになりかねない。オールドタウンとニュータウンという言い方で、ヨーロッパなどでは典型的ですけれども、オールドの方がニューのものよりも価値があるという意味合いを含めて、表裏が逆転して、オールドタウンとニュータウンで、オールドタウンはオールドであるがゆえにいいという誇りというものがあるわけです。
 ともあれ表裏が逆転するという観点で金沢を見ますと、まさに我々が議論をしている石川県地場産業振興センターは、かつては田んぼだったところにすばらしい会議場ができた。ここは、まさに新しい金沢を作るニュータウンの真っ只中です。おそらく金沢港ができたことによって、五郎島と金沢との間にきっと見事な橋が架けられるでしょう。そうしますと今金沢港が繁栄しつつあるように、物流と観光客の拠点にもなりうるというように、長期的に見ると表と裏が逆転する。どちらも見方によっては表になりうるわけですが、いわば旧都市から新都市をどう作るかという課題を、実は金沢自身が持っている。その議論を抜きにした都市論というものはないだろうと思います。新宿にニュータウンを作った。それからまた京都では今作りつつあり、うまくいくとはどうも見えないのですけれども、さて金沢はどうかということです。
 基本的に国のレベルでは、ガーデンシティあるいはガーデンタウンをつくろうとしている。これは花の町や、緑したたる町という意味で、もう少し抽象的に言えば、美しい町をつくろうということだと思いますが、魅力ある、惹きつける町をつくろうと。そういう計画がここにあるかどうか。もし金沢ということで、伝統芸能・伝統美術・伝統工芸だけにこだわっているならば、それは具合が悪く、むしろそれを引き立たせるために新しい美というものをどう作り上げていくかということこそ、今、金沢に課せられている課題で、この地場産業振興センターをどういう脈絡の中に置くか。この地場産業振興センターが生きるような、そういう景観をどう作っていくかという課題に迫られているのではないか。これは実は日本全体に当てはまる課題であると思っております。
  

金沢ラウンド誕生について
パネリストプロフィール
モデレータープロフィール
開会あいさつ
福光松太郎
プレゼンテーション
 水野一郎
 伊藤光男
 竹村真一
 米沢 寛
 金森千榮子
 市村次夫
 川勝平太
 小林忠雄
 大内 浩
 松岡正剛
 山口裕美  
 米井裕一
 佐々木雅幸
●セッション1
都心で実験してみたいこと
●セッション2
これから議論すべきテーマは何か
●セッション3
創造都市とは何か
 
全体会議のまとめ
委員長総括
実行準備委員会